今成夢人の性春ジャイアント・シリーズ vol.6
2016-05-02
コラムニスト:今成夢人
先日、クエンティン・タランティーノ監督の新作「ヘイトフル・エイト」を鑑賞しました。残り2作品での引退を表明しているタランティーノ監督ですが、タランティーノらしさが爆発し、タランティーノ節が冴え渡っていた新作のように僕は思えました。ここで言うタランティーノ節というのは、映画内の時間軸の構成を巧妙に入れ替えることで、B級作品のような題材をA級な質感へと蘇らせるその独特のタランティーノ作品で見られる語り口のことです。最新作「ヘイトフル・エイト」でも、あるシーンから途端に加速し始め、「実はこんなことがありましてねー」という語りになり、そこに絶妙な仕掛けを施していく悪意と映画魂にただただ映画的な興奮を覚えました。

唐突に話の質感が変わるのは、観客を置いてけぼりにする可能性があり、危険が伴うものです。タランティーノに影響を受けた映画作家たちが、同様の方式を用いても、ただの亜流作品にしかならないのが、その語り節は簡単にはマネ出来ないということの表れだと思われます。

AVの語り口にも、ある一定のフォーマットや流れがあるように思えます。HMJMからリリースされる作品もインタビュー、旅、セックスという様々な要素が絡み合いながらも、各々の監督が何らかの決着をつけるエピローグまで、HMJM作品にはある種の様式美のような美しさを兼ね備えながら、綺麗な流れが見受けられます。

しかしながら、AVは時としてそんな流れをタランティーノ作品のようなビックリする展開で断ち切っていくものも存在します。
話の流れを断ち切るというのは女優のエロの力です。ある意味で、それこそがAVの真骨頂なのかもしれませんが、カンパニー松尾監督の作品、百花エミリ from 「恥ずかしいカラダ すっぴん」には「話よりもエロだ!」というべき衝突な展開がありました。

この作品も松尾さんの軽快なインタビューでスタートしていきましたが、唐突にあるテロップが挿入されます。

「その後も話は続いたが、後にして 彼女のその奔放かつどん欲な交尾をお見せします」

つまるところ、「話はいいから、とりあえずこの女は凄くエロいので、まずはそれを見てくれ」っていう編集です。多くの作品が最初はインタビューをして、その後ホテルへ行ってといった流れに沿っていき、それを丁寧に紡いでいくのですが、この話のぶった斬り方は驚きました。

しかしながら、それも納得出来るエロさで、百花エミリさんのエロさは爆発していきます。
端正な顔立ちからは想像出来ないチンポへのどん欲さ。さらに徐々に明らかにされるその潜在的な変態性は、松尾さんの屁を嗅いで喘ぐというシーンに繋がっていきます。(エミリさんはケツの穴付近のスメルが相当好きらしいという特殊な才能があるみたいです。)

これを見れば、確かに話は置いておいてという気持ちになるのも頷けます。話よりセックスに伴うエネルギーが明らかに上回っている。
インタビューによって作品の伏線にするというよりも、エネルギーのあるセックスを見せることで強いショックを与えられた感じがありました。

以前、ドキュメンタリー監督の松江監督とお話をした際に、「編集はエネルギーですることもある」と仰っていた事を思い出しました。
理屈や、理論を超えたエネルギーを優先することが映画の編集では時としてあるのでしょうが、まさにそんなエネルギーのお手本を松尾さんに見せつけらた格好です。

そして話を後にしてでも、どん欲な交尾をまず見せなくてはという松尾さんの語り口がたまりません。ハメ撮り監督自らが実感したそのエロエネルギーに実直な編集が、鑑賞している私たちのテンションをさらに上げてくれるのです。

そういえば足フェチで有名なクエンティン・タランティーノ監督。大傑作の「デス・プルーフ」ではオープニングシーンから女優の足しか映さないという足フェチっぷりでした。
散々、足を映した後に女の子たちの駄話が永遠と続くのは、この作品の特徴の一つですが、乗っけから性癖をぶちかますタランティーノ監督は流石としか言いようがありません。

これがエネルギーを優先させた編集なのかさっぱり分からないところではありますが、残り2作品と発表しているタランティーノ監督にはもう一度足フェチっぷりを炸裂させる作品を撮って欲しいなあと願うばかりです。

私が日々制作しているVTRも物語を伝えることが命題かつ、扱える尺が短いため、どうしてもエネルギーより物語を伝えることを優先させなくてはならないのですが、
やはりこのようにエネルギーを優先させることがやりたくなってきます。プロレスだってエネルギーですからね、対戦に至る経緯の物語よりも、エネルギーが大事なシチュエーションって絶対にあるはずなんです。

さらにそのエネルギーを伝える側にフェティッシュな感性があることも見逃せない。松尾さんだって、タランティーノだって自分のフェティッシュにとても正直です。パンツを脱がさずにズラしてハメる松尾さん、足ばかり撮るタランティーノ。私もパンツの上に乗った腹肉が大好きです。腹肉から始まる映画を撮りたいし、話なんてどーでもええから、まずはこれを見ろ!って言いたくなるような映像だって撮りたい。松尾さんとタランティーノという存在自体がアイコンとなっている二人が放つ突き抜けた映像に、理屈を超えたエネルギーをぶつけたくなってきたのでした。
今成夢人プロフィール

1985年新潟県長岡市生まれ。

多摩美術大学卒業制作作品として制作した学生プロレスを題材にした短編ドキュメンタリー映画『ガクセイプロレスラー』がバンクーバー国際映画祭など、ごく一部の映画祭から招待される。
2011年DDT映像班に。会場VTR、中継番組などDDTの映像演出全般を制作するようになる。
衛星プロレス団体ガンバレ☆プロレスでは選手としてリングに上がったりする

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