3月31日にDDTプロレスリングが新たなに制定したDDTのドラマティックアワードなるパーティーが開催されました。これはDDTプロレスグループの1年を通して、目覚ましい活躍をした選手などを称える新たな賞で、部門もMVPやベストバウトといったもの以外に、ベストマイク、ベストSNSといったユニークなものまで含まれています。強さという概念やチャンピオンであるかどうかということとは別の観点で、選手を称える部門があることがとてもユニークな新たな価値創造へと繋がる予感をさせるものとなりました。
評価される場がないのならば、新たに評価される軸を作ってしまえばいいというのがどことなくAV業界のAVオープンや、S1グランプリのようなものを感じさせます。
その中で僕はベスト煽りV賞というのをいただきました。これは年間で開催された興行内で上映されるいわゆる「煽りV」の中で、最も印象に残ったVTRを決めるといったものになるかと思います。
そもそも煽りVという言葉が世間に認識されたのは、ここ15年くらいのものでしょうか。試合前に選手同士の対戦に至る背景や、その想い、意気込み等を試合前に会場内にあるデカいスクリーンで上映することで、観客に更なる感情移入を促し、熱狂を生むような仕掛けとなった煽りV。これがプロレス・格闘技興行のスタンダートなものになったのは、格闘技イベント『PRIDE』における佐藤大輔さんの秀逸なVTRによるものでしょう。
よくわからない無名の外国人選手でさえ、佐藤さんのVTRによって、その選手のキャラクターが伝わり、その試合の見方の一つが提示される。さらに選手の思想や、対戦相手との因縁などを印象的なフレーズのナレーションで高揚させ、大箱の会場にいる観客を抜群なDJで躍らせる。気付けばPRIDEは一大ムーブメントを起こしていました。PRIDEと佐藤さんの存在なくして「煽りV」というフォーマットは生まれていなかったかもしれません。それくらいにエポックなことでした。
佐藤さんは過去の記事でヨーゼフ・ゲッベルスのプロパガンダ映像が煽りVTRの起源であるということを言っています。文字通り大衆を煽動させる目的で作られたプロパガンダ映像が、二人の男がリング上で殴りあい、観客を興奮の坩堝へと誘う格闘技興行と最高の相性を示したことは言うまでもないでしょう。
プロレスのVTRもあるにはありましたが、ただ選手の因縁やそれまでのストーリーを紹介するものだったのが、やがて選手個人の思想などを反映させていくようになったのは間違いなくPRIDEのVTRの影響はあるのではないでしょうか。
今回評価してもらったのは夏の8.23両国大会で作った「HARASHIMA vs 棚橋弘至」のVTR。棚橋選手から「井の中のエース 対 世界のエース」というフレーズを引き出したという点が賞をいただけた評価のポイントのようです。
この手のVTR作りを始めて5年くらいになります。始めた当初はそもそもAD業が多忙過ぎて、題材に対して深く掘り下げる時間も設けられず、在り来りなVTRしか作れませんでした。在り来りというのは「リング上の選手二人が、こういう前哨戦をして、こうやってタイトルマッチを今日迎えましたー」みたいな内容です。それはただ対戦に至る経緯の説明に終始しているため、高揚感のようなものが訪れません。観ている側も「ふーん」程度にしか思えず、会場の”沸き”もまるでなかったのです。
ずーっと僕のVTR作りは苦戦していました。あまりにスイングしないVTRを作ると、素材はいいのに、僕の調理で不味くしているのではないかと思うこともありました。選手に対する申し訳なさと、監督としてそれをまとめられない自分に腹が立ってくることもありました。
しかし2013年8月に行われた「飯伏幸太 vs オカダ・カズチカ」の一戦のVTRで、ちょっとだけVTR制作のコツを掴むことがありました。この試合は新日本プロレス所属のオカダ選手がDDTに初参戦をするということもあり、ドラマティック・ドリーム・マッチと題され、かつてないほどの期待感に満ちていました。僕もこれまで担当していた試合とは異なる期待感をひしひしと感じていました。この夢の対戦カードに対して、どんなテーマを打ち出せるのか。そこは僕自身も戦いだったと思います。
プロレスが再び盛り上がっている。そのムードを牽引する二人の戦い。これからのプロレスの流れを占う戦いだと解釈した僕はインタビューでプロレスのムーブメントについて現在と過去を交えて、多くの質問をしていきました。不思議なことに対戦相手について聞くというより、対戦相手を含めたこの対戦カードが持つ意味と解釈を自分なりに質問した結果、面白い答えが沢山返ってきたのです。選手に対して、対戦相手のことについて質問をするのではなく、違う質問を積み重ねたことで、思ってもみなかったテーマが見えてきた。
試合が始まる2時間前にようやく完成しました。初めての両国国技館2連戦。映像スタッフの数も極小の中でやっていたため、当日ギリギリまでやるという進行スケジュールでした。VTRの上映中でオカダ選手が「馬場、猪木を知らない世代にレベルの違いを見せつけたい」と語るインタビューパートが上映されたときに、会場が多いに沸いたのです。さらに飯伏選手が「それは夢がありますね。野球やサッカーと同等のメジャージャンルのスポーツにしたい」と語るとさらに沸きました。
それまでずっと頓珍漢なVTRを作り続けてた僕が、プロレスのVTRは時代の空気感を真に捉えたフレーズを紡ぐことなんだと少しだけ理解した瞬間でした。もちろんフレーズだけでなく、それを構成と編集で作為的に作れた。この試合にはこれだ!という音楽をつけて、試合を煽り立てるテンポを加速させ、自分の意思や願いもそこに加わったように思えました。
AVもこのようなフレーズが大事のような気がします。平野さんの作った映画「監督失格」もそもそも林由美香さんが平野さんに言った「監督失格だね」という言葉から拝借したいうエピソードはあまりに有名です。この「監督失格」という言葉が後に様々な物語を紡いでいったことは周知のことでしょう。と、同時に平野監督もその言葉によって苦しんだのかもしれません。
昨年の夏、制作した『HARASHIMA vs 棚橋弘至』は棚橋選手が「井の中のエース 対 世界のエース」というフレーズを口にしたことで、一気に試合の見方をガラリと変えるものでした。そう言わなければ”普通のドリームマッチ”になってしまったかもしれぬムードを一変させ、棚橋選手が対抗戦という図式をしっかりと持ち込んだのです。それは棚橋選手が見事なまでの言語感覚を発揮しコピーライターとしての機能を果たしていました。その過激な言葉が火種となり、その後は未だかつてないほどの両団体の対抗戦ムードが生まれました。それ故にHARASHIMA選手もその言葉に苦しみましたが、悩みぬき、一緒に戦う仲間を持ち、戦うことで自分自身が答えを出す状況を後に作っていきました。
一つのフレーズが作り手の思惑を超えていき、思ってもみなかった物語が生まれていく。それはどこかでAVで起こりうることとも重なるような気さえしました。
タートル今田監督とお酒の席で「AVドキュメントは2、3日のロケで何かしらの結論を出さなくてはならないんだ」と言っておられていたことが僕の頭に残っています。
取材にかけられる時間も、当てられる時間も決して長いものではない。潤沢な予算が与えられるわけでもない。それでもドキュメントとして、限られた時間の中で総括をしなくてはならないのです。
HMJMのドキュメントAVには監督の結論でまとめられたものや、女優の気持ちを代弁したものなど、様々な形の「決着」があります。同じように僕が作るVTRにも短い時間の中で、何かしらの「決着」をつけなくてはならないという点では構造は大変似ているものです。「○○vs○○!」なんてことや「ぶっ潰す!」なんてことは常套句ではある。AVの締めにも常套句の締めはあるだろうけど、そうは簡単に着地させたくないのが監督という生き物ではないでしょうか。
そんな中、印象的なフレーズや言葉が何故か脳裏を離れられない、ずっと引っかかるサムシングを持ち合わせる言葉が鍵になるプロレスのVTR。今では様々な団体の会場で上映されています。AVファンの皆様には是非ともそんな観点でもプロレス興行のVTRを楽しんでみてはいかがでしょうか。