「誤解を恐れずに言えば、プロレスはセックスに非常によく似ている。身体を通して互いに刺激し合い、相手の反応を見ながら次の手を打つ。相手もまた様々な技術で応酬してくる。いい相手とセックスすれば自分も高まり、素晴らしい快楽と開放感を得ることが出来る。プロレスの場合、それを支える観客の視線も必要条件になる」
とはアントニオ猪木自伝で語られる有名な一節だ。何かしらプロレスに感化されたプロレス者であれば、この猪木さんのフレーズからプロレスとセックスの関係性について、勝手気ままに考察を試みた者も少なくないでしょう。
申し遅れました、DDTプロレスリングというプロレス団体で主に各試合の”煽り”VTRやら、中継番組などの映像制作をしている今成と申します。DDTグループの衛星プロレス団体、ガンバレ☆プロレスという団体でも選手として試合もやらせてもらっていたりします。
テレクラキャノンボールに感化されて制作されたDDT製作の映画『劇場版プロレスキャノンボール2014』で助監督・編集・出演もやらせていただきました。そんなこともあってかお陰様でHMJMさんとも交流が生まれまして、この度プロレス方面の人間としてコラムを書かせていただくことになった。
プロレスとセックス、またはプロレスとAVが同じ共通項として語られることはこれまでにも沢山あったように思えますが、その理由は端的に言って、冒頭の猪木さんの言葉にあるフレーズに集約されるのではないでしょうか。猪木さんにとってタイガージェットシンは良いセックスが出来る相手であった。これはプロレスをセックスに例えた有名な逸話です。
実際のところ、プロレスを観戦しながら、「あぁ、なんて良いセックスなんだ!この二人は互いを愛でもって殴り合っている!」「フィニッシュに至る流れが素晴らしい!」とかそんな観点で見ている人がどこまでいるかも実際のところほとんど分かりません。プロレスの見方は実に多様ですし、何も全てが全てセックスを連想させるものではないでしょう。純粋にプロレスはプロレスなんだという人だっていると思います。
しかしながら、やはりプロレスとセックスはある種の例えやすさという意味で、とても良い関係の状態にあるような気がしている。「この男優と女優のカラミはいつ見ても鉄板だなあ」なんてAVを見ながらふと思っちゃうときだってプロレス者なら藤波辰爾と長州力の名勝負数え歌を連想させてしまうかもしれない。たぶん私のコラムでもそんな感じで無理矢理にでもプロレスと絡めていくんじゃないだろうか。
ちょっと自分の話をすると、自分自身のプロレスへの目覚めと性に対する目覚めってほぼ同時期だった。
だいたいプロレスに本格的にハマったのが小学校高学年から中学生の時期。その頃はプロレスのテレビ中継って深夜にしかやってないわけで、私はVHSレコーダーで3倍の機能を使って、毎週「ワールドプロレスリング」や「全日本プロレス中継」を録画してプロレスを視聴していました。
とにかくリアルタイムの放送時間でプロレスを見る作業は深い時間の放送のため、意外に困難でしたから、ビデオテープというメディアには相当助けられていた。そんな中ある時、気づいた。「ワープロ」も「全日中継」も前後にエッチなテレビ番組が何気なく多いことに。多感な中学生、プロレスを見る興味と、エッチなものを覗いてみたいという関心がごちゃまぜになり、「ワールドプロレスリング」の予約録画と平行して、その前後にあるスケベそうな番組を片っ端から予約録画していきました。僕のプロレスビデオは次第にスケベな番組とプロレス番組のリミックステープになっていきました。
プロレス番組を毎週録画し、VHSテープの背シールには親にバレないように「ワールドプロレスリング、闘強導夢2000」なんて貼っておきながら、巧妙に前後にあるエッチな番組の録画にも成功させてきた。どちらも土日の番組なんで、平日にやっている「トゥナイト2」とかを堂々と録画すると怪しまれるから、やっぱり土日の番組内でいかにプロレス番組というエサを使い、エッチな映像を確保出来るのかというのは、一人の少年にとっては隠れた重要なミッションだったのです。これらの経験がプロレスとAVを分け隔てることなく、同一線上のものとして捉えるようになった一つの要因だと思われます。
そんな中、一本のVHSが誕生しました。そのVHSの背シールには「邪道ビデオ」と筆ペンで力強く書かれています。「邪道ビデオ」というのは1999年当時、新日本プロレスに殴りこみをかけ、プロレス界の話題を集める大仁田厚さんに関する番組を録画していたビデオでした。プロレス界で活躍する一方で当時の大仁田さんはプロレスの活動と平行して、NHK朝ドラの出演、さらに定時制高校に入学するなど、様々な方面で話題になっていました。
恐らくですが、この「邪道ビデオ」は僕のドキュメント観を形成させた原点となる一本です。 リミックス具合の混沌ぶりでは他のビデオよりも群を抜いたものになりました。その要素を羅列するだけでも、電流爆破、巨乳、高校生活、ミニスカポリス、有刺鉄線、風俗特集、新日本、夏の水着チェック、グレート・ニタと実に意味が分からない感じになっています。
当時、NHK、フジテレビ、テレ朝と様々な番組が大仁田さんの高校生活にスポットを当てたドキュメント番組を作っていました。大仁田さんが高校生活を続けていく中で、中間テスト、期末テストの上位に食い込む成績を残し始めたり、周辺の友達が大学進学や専門学校に進学するかどうかで悩んでいる様に影響を受け、大仁田さんが大学進学を真剣に考え始める様子などが赤裸々に映しだされていました。最後の最後、卒業が迫る中で、大仁田さんが高校の体育館で卒業プロレスを企画し、担任の先生とタッグを組む様は一年間の学園ドラマとしても、大仁田さんにしか出来ないやり方を貫き通し、実に感動的でした。
42歳のプロレスラーが高校に紛れ込み、その様子をドキュメントとしてテレビ局が描写する。こんなことは熟女女優に制服を着せて、学校でロケしてハメるAVのようなものとも言えるかもしれませんが、状況設定が状況設定なだけに、それがキワモノでありながら、大仁田さんが卒業をするシーンには、どこか突き抜けた感動を覚えたのは事実でした。と、同時にプロレスは何でも呑み込んでしまうものであり、得体の知れないものなのではないかと、更に興味を注がされることになっていきます。
こうした「学園制服モノ」を見事なまでにドキュメントとして完結させた大仁田さん。一方で、本業のプロレスでも過激なまでにそのドキュメント力を推進させていました。新日本プロレスの長州力選手に狙いを定め、自身の死に場所を求め、引退した長州選手を電流爆破のリングに引きずり出そうとしていました。この展開に、テレ朝の「ワールドプロレスリング」は実況アナウンサーの真鍋アナを大仁田さんの取材に向かわせますが、大仁田さんは真鍋アナを「新日プロ側」の人間とみなし、その場で暴行を加えていくなど、大仁田さんの新日プロへのアレルギーが真鍋アナへと向かい始めていきます。この大仁田さんと真鍋アナウンサーとのやり取りは次第に「大仁田劇場」と呼ばれ、「ワールドプロレスリング」の名物コーナーとなっていきます。この大仁田劇場、僕は愛憎のドキュメントだと思っています。執拗に新日プロに電流爆破デスマッチを要求する大仁田さん。
「俺と新日本プロレスとどっちが好きじゃ?」と真鍋アナに聞き、真鍋アナは怯えた声で「私は新日本プロレスが好きです」と答えると、大仁田さんはビンタで返すのです。
なんじゃこりゃ?と思うシーンです。しかし、大仁田さんは真鍋アナに伝えたいのです。「真鍋よ、こんなやり方でしか出来ないが、これもプロレスの魅力なのだ。分かってくれ」と。自らのカラダを傷めつけ、インディーマットで活路を見出してきた大仁田さんの不器用な愛なのだと思います。
AVで言うと、AV監督がAV女優のことを好きになってしまうという作品が過去にもいくつかあったような気がします。AV監督はAV女優になんとか認められたいと、あの手、この手を使い、時に過激な演出を仕掛けようとして、不器用なまでにこちらに振り向かせようとする。カンパニー松尾監督や平野勝之監督が林由美香さんに対して、そういった作品を作ることで、それらの感情をぶつけようとした姿とどこか重なるように思えます。
真鍋アナは次第に大仁田さんが主催する興行に顔を出すようになります。有刺鉄線ストリートファイトといった形式がメインイベントの大仁田興行ではとにかくハチャメチャな乱闘が繰り広げられ、大仁田さんが自らの感情をマイクで吐き出し、聖水をファンに浴びせるといったパフォーマンスは驚異的な熱量と磁場を含んでいました。そんな現場に新日派だった真鍋アナは次第に心境の変化を見せていきます。
当時、私もこんな熱を感じてみたいと中学生立ち見券500円のチケットを買い、後楽園ホールのバルコニーでその様子を見に行っていました。TwitterもSNSもない時代に、テレビでリアルタイムで進行するドキュメントを体感するためには現場に行き、テレビの映像とリンクさせるしかありませんでした。「プロレスキャノンボール2014」はTwitterを駆使して、ファンの人にもそのレースの模様をリアルタイムで伝えていく手法を取っていましたが、これらのドキュメントとリアルタイムで進行していく情報というものは、なんとしてでも生で体感したいと思わせる何かがあります。
「俺と長州力の試合を見たいか?」
「私は長州戦が見たいです!」
「よくぞ言ったな、この野郎、、」
記憶が定かでないのですが、このようなやり取りがあったことを覚えています。 真鍋アナが大仁田さんの熱意に突き動かされ、漏らした言葉でした。
ドキュメントAVがセックスを介することで、感情の移り変わりを描写するものだとしたら、大仁田さんは実況アナウンサーにまさにそのようなものを仕掛けていったことになります。
真鍋アナは度重なる大仁田さんの聖水を浴び、いくつものスーツをダメにしたそうです。そこで大仁田さんは真鍋アナにスーツをプレゼントします。
「安いスーツだけど、これを着て長州戦を実況して欲しい」
長州力選手との電流爆破デスマッチ。真鍋アナは大仁田さんからもらったスーツを来て、渾身の実況をする。実況席は辻よしなりアナと真鍋アナの2つの実況席が用意されていて、「ワールドプロレスリング」の視聴者はその実況が比較出来るというものだった。辻アナの実況はその圧倒的な語彙力や、2年7ヶ月振りに復帰をした長州力選手の圧倒的な肉体に呼応するかの如く、流石の上手さだった。一方で真鍋アナの実況は大仁田厚に対する想いが先走り過ぎているせいか、どこか拙い。しかし振り絞る声が、ブラウン管からも聞こえてくる。「大仁田!大仁田!」と連呼する中で、真鍋アナが一緒に大仁田厚と過ごしたドキュメントが漂う。
ドキュメントAVはAV監督のテロップによる心情表現で作品を締めくくることがありますが、スイングしたセックスもあれば、スイングしなかったセックスもある中で、赤裸々な言葉で締めるところにAVドキュメントに「らしさ」があるように思えます。
それらを踏まえ、拙いながらも、言葉としての上手さではなく、率直な感情を言葉にして伝えようとする。真鍋アナの絶叫はどこかそれにも似たようなものだった。
長州力と大仁田厚の試合は長州選手が一度も被爆することなく、その圧倒的な強さを魅せつけました。大仁田厚とスイングをすることを選ぶのではなく、長州力が長州力であることを選んでいるようだった。それはスイングしたプロレスではなかったが、リング上の二人以外にどこかで真鍋の視線が介在することを感じさせる試合。
数度の爆破と長州選手の攻撃によって敗れた大仁田厚のもとに、真鍋アナは駆け寄る。
「真鍋、俺の生き方は間違ってんのか!?」
「間違ってないですよ!最後まで付いて行くって言ったじゃないですか!」
「弱くてもよお、自分信じるしかないんじゃ、真鍋」
弱いかすれ声で喋る大仁田に対して、
「改めてプロレスが好きになりました!」
と真鍋アナは呼応する。
「真鍋、ありがとよ」
と大仁田厚がかすれ声で喋り、救急車に運ばれていく。
「真鍋、ありがとよ」
この言葉は、ドキュメントAVでこれを締めくくりのテロップとしてくっつけるのならば、最高のテロップだと思います。いきなり殴り、殴られるという出会いからスタートした二人が、異なるプロレス観を持ちながらも、プロレスを通じて、時にぶつかり合い、「プロレスっていいな」という感情に昇華出来たのです。だからこそ、大仁田さんが絞り出した最後の言葉は儚くも美しい。
AVもプロレスもカラダを使いぶつかり合うという行為があることがとてもいいことだと思います。特に異なるイデオロギーを持つ人間はなかなか分かり合えません。論争に論争を重ねても、解決することって実際のところそんなにないです。今ではネット上の論争がそうです。ネットで言い合いになって解決することってほとんどない。それはエネルギーを燃焼する場としての性質が違うからだと思います。
プロレスのいいところは、じゃあそういう時に「プロレスで決着を着けてみようか」とりあえず「プロレスをしてみればいいじゃないか」というところになることだと思います。
AVだって価値観や、相手の考えていることがよく分からなかったら、カラダを交えて、ちょっと仲良くなってみようかということが出来るのがとてもいいことなんだと思います。
HMJMの皆さんは、いろんな形で「決着」を付けるために工夫を凝らす人たちです。時に悩み、時に仕掛け、時にユルく、時に過激に。ドキュメントとセックスを使い、答えを出す、プロフェッショナル。そんな形で、プロから素人までをも巻き込ませたテレキャノはHMJMなりのプロレスにさえ見えてきます。ネタバレ禁止のアレなんかも、ある意味でAV監督が次々に電流爆破に挑戦していくようにさえ思えます。
僕の「邪道ビデオ」には大仁田さんの高校生活や、実況アナウンサーとのドキュメントなど、直接的に「試合」をしていないにも関わらず、自身の「プロレス」を応用、展開させ、ムーブメントに巻き込んでいく様子の映像が詰まっていました。レスラーが相手でなくても、「プロレス」をすることで燃焼する大仁田さんには沢山の影響を受けました。AVにもちょっとそういうところってあるような気がします。ヌケないAVなのに、なんだかカラミ以外の部分で感動してしまっているっていうの。
ところが邪道ビデオをしばらく再生していると「夏の水着チェック」と題して分度器を持ったリポーターが海にいる女性のハイレグ度を調査する映像に切り替わります。とってもくだらないけど、そんなことがリミックスされた環境で育ってしまったのが僕でした。「邪道ビデオ」は僕にプロレスもAVも同一線上に分け隔てることなく、視聴するクセを与えてくれました。
奇しくも「プロレスキャノンボール」ではくだらない映像から、ドキュメントな映像までごった煮になっていてもやっぱり「プロレスっていいな」と思わせたいという気持ちで構成された作品になっていました。そんな中で、プロレスの「試合」で完敗だったガンプロチームの一人として、フルチンになり、泣きながら喚いていた僕はやっぱり間違ったドキュメントでしかぶつけられない29歳の自分を記録することで精一杯。
映像だけの世界で見ても、機材の発達や、誰もがカメラを持てる時代になり、分け隔てられていたジャンルが、何か共通項を見出し、互いに交流を始める、または同一線上に編集されていくという面白い時代になりました。今回、プロレス者にも関わらずHMJMさんに声をかけてもらえて本当に有り難いです。
時代は巡り巡って、VHS内のリミックスを飛び越え、Youtubeを始めとする動画サイトの時代です。きっとこのPGbyHMJMも新たなドキュメントの輪郭を見せてくれるものになるでしょう。
拙い文章ではありますが、今後とも何卒よろしくお願い申し上げます。