鶴岡法斎の「恥ずかしいココロ」 第9回
2019-08-21
コラムニスト:鶴岡法斎
気が狂うような暑い日が続いていました。ベランダのサンダルが日光の熱で溶け、足の裏に張り付き、とても不快でした。
 ツイッターを見ると平野勝之さんが怒り狂っていました。何がなんだかわからないけど罵詈雑言。誰かを傷つけながら、自分も傷つく、誰もが経験あるだろうけど、本当に生産性のない、百害あって一利なしの状態なのは短い文章のいくつかを読むだけで容易に想像できました。
 こちらは暑いし、しんどいし、まあたいしたことはないにしても日々の生活の細かいことが煩わしいのでわざわざこの面倒くさそうな平野さんにかかわる理由はないだけれど、このまま無視すると、ただでさえだらしない自分の人生がより一層、だらしのないものになってしまう気がして、数分、数十分悩んだあと、割と強めに覚悟をして、深呼吸してから電話。平野さんの声は思ったより元気そうで、第一声が、
「どう、結婚は?」と。
 いま、こちらの身辺ことなんかどうでもいいし、自身の不倫を何度も映像作品(傑作!)にしている人にそんなことを話す余裕も趣味もない。
「そんなことはどうでもいいんですよ。どうしたんですか」
「いや、想像通りですよ」
 といって説明される顛末。はっきりいって想像以下だった。まあくだらない、しようもない。相手のいることなので詳しくは書かないが、その内容もくだらないし、平野さんの語り口もひどい。大きく区分けしたら恋愛の、ひとつの不幸な終わりなんだろうけど、それって恋愛かなあ、って思うような部分もあって、私は呆れつつ、それなりのいい人ヅラをして相槌を打って、電話を切った。エアコンの温度を一度下げた。
 夜、平野ファンでもある妻が帰宅。こちらが昼間電話で聞いたことを話す。
 今年一番くだらない話を聞いた、あの人は本当に才能以外誉めるところがない、などと平野さんが聞いたら一層、怒り狂うようなことを話した。話し終わってまた普段の生活に戻った。暑い日はまだ続いた。
 数日後、ツイッターを見たら平野さんがクラウドファンディングの企画をぶち上げた。

https://note.mu/hirano320cinema/n/n654ad1e2e83b

 平野さんの気持ち、覚悟はわからないが私には奇妙な感情があった。負のカードだけ集めて最強の役ができる、みたいな、太宰治が書いたような気分。ここまで自分の、私的なことだけを追及して、挙句に世間の人々からお金を集めて映画を作ろうという「、独善的と紙一重というか、いや独善そのものである平野さんに痛快さを感じた。
 自分、自分、自分。どこまで行っても自分の話。平野勝之の真骨頂である。わがままで怒りっぽくて惚れっぽくて、変なとこ繊細で変なとこ雑な、人間としてはあまり万人にお勧めすることのできない人間ですけどそれが映画になると面白い。
 平野さんはその作品で自分のダメな部分を含めて批評するので結果とても面白くなっている。だから映画を撮らずに、過去の作品を上映して、お客さんから尊敬される平野さんも生き方の一つとしてはあってもいいけど、やはりあんまり面白くない。愚行悪行まるごと映像で生け捕りにして料理して出してくれるのが気持ちいい。

 すでにかなりの金額が集まっているようです。私も少額ながら支援しました。自分は計画通り達成することだけが成功と思っていない。集まったお金を持ち逃げしたっていい。ただその経緯はちゃんと記録してほしいし、上映してほしい。平野さんが悪戦苦闘する姿をスクリーンで見たいからお金を出したんです。私だって自分の快楽のためにやっているんですよ利己主義。それでいい。

 まだ暑い日が続きますが九月の北海道はどうでしょうか。平野さんにだけ陽気な災いが降りかかる旅を祈願しております。
鶴岡法斎プロフィール

マンガ原作者、作家。

最初はエロ本のライターをやっていたのですがいろいろあって、ありすぎて現在に至ってます。

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