鶴岡法斎の「恥ずかしいココロ」 第7回
2016-07-27
コラムニスト:鶴岡法斎
「そもそもセックスなんて人前で見せるもんじゃないんだよな」とあらためて思った。
 この作品やAVを否定しているのではない。そんなことを思うほどに濃厚で刺激的で情報量のおおいものを見せられたのでぐったりしているのだ。
TrueLove」は榎本南那と山南恵介という交際歴11年のカップルが自分たちのセックスをAVとして撮影させよう、という話だ。監督は梁井一。11年目だというのにこのふたりは見てるほうが照れるほどイチャイチャして、お互い言葉で、態度で誉めあう。性行為も回数多く、時間も長いという。自分にこんなことができるだろうか?
 そして実際にセックスが始まると彼氏が器具を使いながら、何かの職人のように愛撫をして、女性が悲鳴にも似た、なんというか叫び、唸りというような声を上げる。正直、思ってたのと違った。もっとスローセックスというか、しっとりした静かで淡々としたものを勝手に想像していたのだが、過剰なAVの描写より、大袈裟で騒がしい。しかしこれは演出過剰のファンタジーAVではない。素人カップルの、日常のセックスなのだ。何が過剰かといえばこのふたりそのものが過剰なのだ。

 過剰なものを見たので疲れたのか、その日、奇妙な夢を見た。

 深い意味もないのにどうしてもやらなきゃいけない親戚の面倒な付き合いがあってかなり縁遠い血縁のいる、行ったことのない街に行くことになった。何度も乗り換えをして、鈍行の列車に乗って目的地に着いたときに改札口から見える一面の水田のキラキラした緑色を見て、
「金田一の映画、次撮るならここでロケしたらいいんじゃないか」と呟いた。そこからまたバスに乗り親戚の家に行く。家自体はいまどきの業者が作った何の変哲もない一戸建てだがとにかく自然が多い。駅前は水田だったがこのあたりは畑が多い。自分は不勉強でこの大量に栽培されている植物が何なのかわからない。尖った葉とひょろ長い白い花。あとで誰かに教えてもらおう。写真があればすぐにわかるだろう、と。
 用件自体はそこに自分が到着すれば九割以上終わったようなもので、親と暮らしている若夫婦と他愛ない話をしたりした。ところでこの若夫婦のどちらと自分は血が繋がってるんだろう? そんなこともわからない。万が一婿養子だとしたら? これもあとで戻ってから誰かに聞こうと思った。自分は知らないことが多すぎる。よくここまで生きてきたものだ。
 用事を終えたので東京まで戻るのは無理にしてもどこか都市部にまで出てそこのホテルにでもと思っていたのだが、せっかくなんで泊まっていけといわれ、断る理由を見つけられず一泊することになった。
 何杯目かのお茶を飲んだ。普段コンビニのお茶を飲んでいるせいか、苦味、風味が独特だ。そして茶碗が飲むときに歯に少し当たる感じも気になる。
 応接間にカレンダーがある。風景写真があって二か月ぶんの暦。下に、地元の商店らしき名前が入ってるのだがそれが読めない。珍名というものだろうか。店の名前はおそらく店主の苗字であることが想像できるのだが、その漢字が読めない。草かんむりに似てるが形が微妙に違う。その下に「月」みたいな字があって。……この辺ではよくある名前なんだろうか。
 若夫婦の奥さんが台所で料理をしてる。見にいくと奇妙な魚をさばいてる。
「なんですか、これ?」
「魚ですよ。名前は知らないけど地元のスーパーでよく売ってます」
「このナマズの先祖みたいなのが?」
「あら、東京の人は面白いこといいますね」
 魚のことは植物や親戚の名前よりかは詳しいと思っていたがこれはまったくわからない。魚屋でも水族館でもペットショップでも見たことがない。その魚を三枚におろして鍋に敷く。その上に大根などの根菜。そしてまた魚。それを繰り返して幾重もの層にする。
 調味料も塩はわかったが味噌しょう油がまず見たことのない独特のものだった。それ以外にもわからない小瓶がある。しかし工場で作られてるのだ。ラベルに「おたまぼう」と印刷されている。隣にお地蔵さんみたいなイラストもあって可愛らしい。
「おたまぼうってなんですか?」
「ああ、昔の人はおたんぼとかいうんですよね」
 それも知らない。
「みりん? みたいなもんじゃないですか。隠し味。みんな使いますよ」
「はあ……」
「東京でひとり暮らしで自炊しないですか?」
 自炊していてもおたまぼうには出会わないと思う。
 そういう訳でおたまぼうも入った鍋。季節の野菜やキノコも入って加熱されたそれを食べた。不味くはない。ただ想像したこともない味だった。風味が強い? この生臭いのは魚のものか? そしてそのあとすこし口内がさわやかになるのは「おたまぼう」のおかげなのだろうか?
「車でちょっといったらファミレスがあるんだからこんな田舎料理出さなくても」と旦那のほうは気を使ったがこちらは夢中だ。旨いか不味いか、ではなく、珍しいか? という評価軸で食事をしていた。
 この料理を完成まで、その奇妙な魚の姿やおたまぼうの瓶なども写真に撮ってSNSにアップしたらそこそこ話題なった。珍しい、珍しいとみんないってくれてなんだかいい気分にもなった。
 そうしたら知り合いの知り合いという人がやってきて、
「おたまぼうの瓶見ました。あれとは違うんですけどうちの実家のほうに『わなごん鍋』っていうのがあって……。今度食材取り寄せて作りますよ!」
 なんでだかわからないが自分はわなごん鍋も食べることになった……。

「TrueLove」は自分にとってそういう作品です。

 作品はこのあとAV女優の横山夏希さんが登場し、さらにそのセックスフレンド(?)まで出てきて驚嘆の世界が繰り広げられる。セックスは密室的なものなのでみんな自分なりの独特さを持っている。多様性、ということで納得したほうがいいのだと思う。正解なんてあってないようなものだから。
 自分は、面白いけど疲れちゃったよ。この人たちみたいに生きるのはできない。向いてないから。



『True Love』はコチラ
鶴岡法斎プロフィール

マンガ原作者、作家。

最初はエロ本のライターをやっていたのですがいろいろあって、ありすぎて現在に至ってます。

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