鶴岡法斎の「恥ずかしいココロ」 第2回
2015-12-08
コラムニスト:鶴岡法斎
最近某雑誌のインタビューをやった関係で平野勝之監督の上映会に連続して伺っています。そのあとの打ち上げもお邪魔させていただいて、性懲りもなく酒の力を借りて自分のAVへの思いを語ってしまう面倒くさい酔っ払いをやっています。

PGでは現在視聴可能作品に入っていないのですが平野勝之監督の「わくわく不倫講座」(96年 V&R)は本当に傑作だと思っています。復刻DVDで見られるので興味のある方はぜひ。
新婚直後、いや前後か、仕事で使ったAV女優と不倫関係に陥ってしまい愛と葛藤の日々に苦しみながらもその甘美な魅力に骨抜きになってしまう平野監督。しかし監督としての使命は忘れず、その骨抜きになってしまっている、言葉は悪いけどかなりみっともない様子まで克明に記録している。これだけでもなかなかスキャンダラスで生々しいのだが、この彼女が途中から平野監督に愛想をつかしていなくなってしまう。呆然とする監督。記録装置としてのカメラはその姿も見事に録画している。
彼女に戻ってきてもらおうと上司をフェラチオしたり新興宗教に入ったふりをしたり身体改造したり宇宙人に会ったり手首を切ったりするのだがすべて無駄な努力。
自分はこの作品はここで終わると思っていた。喪失感、どうしようもできない。好きだった人は自分を好きになってくれない。そもそも不倫じゃないか。そんなことを考えて失意のまま、日常に戻っていくのだろう、と。

平野勝之は違った。日常に戻らず未来に向かった。
2016年の東京、あの彼女は変わり果て、外見は井口昇さんに瓜二つの姿になって平野監督の前にやってくる。そしてデートしたりセックスしたり飲尿したり嘔吐したりする。彼女は全身に斑点が浮かびあげる奇病を患っていた。彼女からの留守電を聞いた平野監督は彼女の家であるポロアパートに行く。そこで彼女はまた別人のような姿になっていた。全身斑点だらけで痩せこけている。監督は思い出の地である静岡の砂丘に彼女を背負って向かう。その砂嵐のなか、彼女は絶命する。

ドキュメントの体裁でありながら途中から未来に行ってしまうというのがいったいどうしたことだろうか。そして明らかに未来編は虚構であるのがわかっているのに異常なまでの説得力がある。予断だが静岡大学でキャノンボールの上映会をやった女子大生にこれを見せたら感動で泣いていた。自分にとっても、表面的な過激さはないものの、この作品はいつも心のどこかに深い影を落としている、それでいて愛らしい作品だ。

話はここ最近に戻る。酒の力もあってか自分は平野監督に最近気になっていることをいってみた。

「あのわくわく不倫講座の未来って2016年で、来年の話なんですよね」
「ああ、そういえばそうだね」と平野監督はいつもの甲高い声で。

「なんかあると思うんですよ。こういうのって。何かあるっていうか、何か起きるっていうか…」

自分は根拠も裏付けもないオカルト的なことをいってしまった。

「そっかあ、じゃあ○○で××××やるかあ」

と平野監督はさらっといった。別に奇をてらっているわけではなさそうだったがはっきりいって「おかしなこと」をいっていた。正直こちらの予想の斜め上。そんなこと考えたこともなかった。思いつかない。しかし確かにそれをやれば辻褄は合う。その酒席にいた人間たちに一瞬緊張感が走り、それを打ち破るように平野監督の高笑いが響いた。

数週間後、平野監督が来年新作に着手するという情報が入ってきた。詳しいことは不明。それでもあの時の会話を覚えてしまっている自分は何かを期待してしまっている。一人の作家が時間軸すらも自由にやらかしてしまうのか? 新作に向けての意気込みが聞きたい。インタビュー、やり直しましょう。
大ファンでありながら平野監督のことを自分は本当に恐れている。畏敬という感情だろうか。怖いし、緊張するんだけど、気になって仕方ない。

今回のオススメ
近親相姦 変態姉貴に生中出し 吉岡奈々子」(平野勝之)

近親相姦をしている姉弟のドキュメントの予定が話がどんどん脱線していって信じられないほど脱力するオチにすべてが集約される。ネタバレは避けるが平野作品にしては珍しい飯テロ映像。見終わったあと焼いた餅をバター醤油で食べたくなって深夜のコンビニに餅とバターを買いに行った。
鶴岡法斎プロフィール

マンガ原作者、作家。

最初はエロ本のライターをやっていたのですがいろいろあって、ありすぎて現在に至ってます。

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