こちらはあまり専門的な事は書かず、文章はシンプルに仕立ててみました。
だいぶTwitterで書き散らしたのですが、改めて記してみます。
最初、僕がランドナーに強烈に惹かれたのは、20年前、「由美香」の旅の時、街乗り自転車で北海道に上陸してからでした。
それまで書物でランドナーの存在は調べて知ってて興味は引かれてましたが、リアルには知りませんでした。
その頃は自転車生活者だったし、映画にも自転車が重要なディテールを形成してましたが、特に自転車そのものに興味があるわけではなく、メーカーもブリジストンぐらいしか知りませんでした。
「由美香」の旅の時、北海道のキャンプ場にいると、たくさんの大学生のサイクリング部の人たちが来てました。大半がMTBだったのですが、五人に一人ぐらいの割合で、先輩のお下がりらしきボロボロのランドナーに、これまた使い込んでいい感じになった帆布の巨大なサイドバックをぶら下げた若いサイクリストがいたんです。
その姿がエライカッコいいわけです。
MTBなんかより遥かに旅の道具然としてて、強烈な存在感を示していました。
最初はこの姿にヤラれてしまいました。
美しかったんです。
北海道の風景ともマッチして。
男性だけでなく、なぜか女性の方がランドナー乗車率が多かった気がします。
もしかしたら、買うまでもなく、今ある物で間に合わせようとしたのかもしれません。しかし結果的に強烈な印象を与えたんです。クラシカルで傷だらけ、ボロボロの帆布の巨大な鞄、実に男臭い道具と若い女の子のコントラスト。あまりに似合っていて、しかも楽しそうで、さらにしっかりと使いこなしてる感じが、ものすごくカッコ良く見えました。
この時の印象が今でも強烈に自分の中にあります。
「オレも次は絶対、ランドナーを手に入れて来るんだ」
心にハッキリそう決めたのを今でもよく覚えています。
1996年、MTB全盛期、8月の北海道、富良野での事でした。
さらにこの旅ではもうひとつの大きな偶然がありました。
その後、店とは10年の付き合いとなるアルプスのローバーとの出会いでした。
しかも1000キロ走った直後、稚内の駅ででした。黄色い、まだ真新しいローバーが立て掛けてあり、持ち主はいませんでしたが、マジマジと初めてみるキャンプ専門の自転車を見たのです。「こんな自転車があるんだ?」これまた強烈な印象で、フレームに記されたアルプスという名だけを記憶しました。
東京に戻り、一回の旅で終わるつもりのない僕は、次なる旅の準備をすぐに開始。旅用自転車を調べましたが、惨憺たる状態。ランドナーのラの字もなく、最低30年の使用を想定したいろいろな条件に一致した自転車は、アルプスしか無い事がわかりました。
トーエイ社は存在していて、その頃、僕も訪ねてますが、あくまでビルダーであり、ツーリングの専門家ではなかったのです。また、アルプスは自分の住んでいる場所から近い事も決定打のひとつでした。
そして、アルプスとの付き合いが始まるわけですが、その60年の歴史を誇っていた老舗、アルプスも、今はありません。
僕は老舗のツーリング車専門店アルプスの最後の世代であり、またフィルムカメラの最後の世代でもあります。消えていく最後の光を見ているのだと思います。
平野勝之
GP 「暮らしのアナログ物語」第2回
https://www.goodspress.jp/reports/55241/
