黒田悠斗コラム『まんぽりんな日々』vol,10
2016-11-30
コラムニスト:黒田悠斗
先日、誕生日を迎えて、また一つ年をとった。本来なら『不惑の年』に入ってるはずが、僕の心はこの年でいまだフワフワと浮わついている。

「つまらない大人にはなりたくない」と思いながら年を重ねてきたのだけれど、こんなにもフワフワした大人になるつもりもなかった。自分で自分を頼りなく思う時がある。もうちょっとしっかりしなきゃな。今年の誕生日はそう強く思いました。



年を一つとって5日経った日の朝7時。3つ年の離れた妹からメールが届いた。

「お兄ちゃん、おはよう。
昨日の深夜に話し合ったみたいで、
両親が離婚することになったって。
今朝、お父さんの方から報告された 。」


今になって離婚? 驚くしかない……

父が71歳、母は67歳。離婚を切り出したのは母側からのようだ。その年になって離婚して新生活を始めるなんて、ちょっと無茶すぎないか?

母の収入は年金のみ。住居は故郷・熊本の従兄弟の家をあてにするという。(従兄弟は独り身。農業を廃業し出稼ぎ中。家を何年もあけていて、家屋を無人のまま放ってあるそう)

そんな漠然としたプランは心配が過ぎるよ。母は黒田家に嫁いで何十年もたってる訳で、故郷に知り合いなんてほぼいないだろうし、払い込み期間が短かかったため年金の受給額も少ないみたいで。かなり無謀だと思う。



まぁ、離婚を口に出した母親の気持ちは痛いほどわかる。僕の父はかなりの頑固者で、偏屈で、自己中心的。日常会話の90パーセントが『仏様にまつわる話』という熱心すぎる仏教徒。スーパー堅物である。

父の口から『面白い話』なんか一度も聞いたことがない。面白味がない地味な生活に心底うんざりしてた思春期の僕は、大学進学のタイミングにうまくのっかり、ひとり都会へと逃げてきた。母の気持ち、よくわかる。よくわかる……本当によくわかるんだよなぁ。


妹からのメールを受けて、まずは父に電話をかけてみた。

僕「離婚するてメールの来たばい。今になって離婚て……どがんしたとね?」


父「知らん。お母さんが泣きながら離婚してくれって頼んでくるけん。そこまでして頼まれたら受け入れるしかなかやろう。」



離婚を切り出された原因はわからないと言う父。今度は母の方に電話をかける。声に元気がない。40年以上、同じ部屋に布団を並べて寝ていた二人が、昨日は別々の部屋にわかれて寝たんだそうだ。お母さん、どうして今さら別れるなんて言うの?


「お父さんから有りもせん浮気ば疑われて、毎日ねちねちと責められるとばい。

私はそれが本当に苦痛でさ。

誰と浮気ばしよるとやって、ずっとしつこく聞かれると。

私が浮気なんかする訳なかやろって言うて聞かせても、全然信用してくれん。

毎日のごと、そう責められて、
もう頭のおかしくなるごたる。

もう、毎日がつらくてつらくて。
息が詰まって苦しかとよ。

お父さんとこれ以上は一緒におられん。早く出ていきたかとさ。」



もう一度言うが、母は67歳。白髪だらけで、みてくれもそう良くはない。あんな閉鎖的で噂が広まりやすい集落で、わざわざ母に浮気を持ち掛けてくる男もいないと思うのだが。

なにより、40年以上、自分を犠牲にしながら家族に尽くしてきた母のことを、お父さんはどうして信用しないんだ?

僕が近くで見てきた母は、嘘をつくような人間じゃなかったよ。あんなに気遣いに溢れ、我慢強くて、人のために生きてきた女性、他に会ったことがないもん。浮気をするなんて到底考えられない。100%、誤解だと思う。母が浮気したという証拠でもあるのか、父に直接尋ねてみよう。



僕「なんか証拠はあるとね?

妄想でモノ言うたらいかんばい、お父さん。」



父「この頃、様子のおかしかったもん。

電話かけても、すぐに出らんやったり、出てもすぐ切れたりすると。

おかしかやろうが。」



僕「還暦すぎたひとりの大人ばい。
それはちょっと縛りつけ過ぎやろ。

電話に出られんこととか、普通にあり得る話やけん。
いちいち疑うようなことじゃなかばい。

お母さんもさ、お父さんの都合に合わせて生きてる訳じゃないとやけん。

電話で逐一管理されとったら、お母さんも息が詰まるって。
人には自分の時間っていうとも必要やけんさ。

電話に出らんやったけんって、浮気って決めつけたら、そりゃお母さんも疲れてしまうよ。

お母さんに限って浮気なんか絶対無いけん。近くで見てきたオイが保証する。

お父さんは自分に自信が無かけん、そうやって疑ったり縛り付けたりする訳よ。自分自身の被害妄想のせいと思うよ。」



父「いやいや、違うとて。

こないだ電話ばすぐに切られた時に、おかしいよなって思うて、帰ってきた時に下ば触ったとさ。」



下を触る? 何の話だ?



父「下着の中に手ば入れてアソコば触ったとさ。

いつもやったらカスカスしとるとに、

そん時はヌルヌルしとったとぞ!」



一瞬で頭がとんだ。何を言ってるんだ、この人は。

アソコがヌルヌルしてたから浮気してきた証拠とするなんて、67歳の婆さん相手にものすごい暴論を吹っ掛けるもんだ。

「いつもはカスカスしとる」とか、母親の湿り気事情なんざ聞きたかねえっつーの。

言っちゃ駄目なことかもだけど、ここはハッキリと言わせてもらおう。
お父さん……それはションベンの拭き残しだってば。



聞く耳持たず、語気を荒げて父は尚も続ける。

父「60歳の時にオマエのお母さんからこう言われたとぞ。

『60にもなって、あんたのごと毎日する人はおらんとばい。
もう老人やけん、週に一回とか、月に一回でよかとよ。
こっちの身がもたんばい。アタシはもう、そういうとはしたくないとよ。』
って。

男に向かってそがんこと言うたらいかんやろ! モノには言い方ってもんがあるとやけん。

オイはな、それから11年間、セックスばしとらんとぞ。お母さんがしたくないて言うて拒むけんが。

夫婦っていうとはセックスばせんば成り立たんとぞ。

なんで拒むとや!
そりゃ、おかしかやろうが。

男はセックスばせんば淋しかとて。

男はなぁ……せつなくなるとて。」



今まで下系の話を一切交わしたことがない相手から、いきなり『セックスできなくてせつない』話を投げつけられたら、正直戸惑う……ていうか、きつい!

親の口からセックスレスの悩み事なんて聞きたくなかったよ。



仏教の教えに従い清廉潔白に生きることを目指したうちの家庭は、そういった下系の話が日常会話で一切出てこない家庭でありました。

完全な無菌状態で育てられたもんだから、中学三年生の夏に道端に落ちてたエロ本と出会うまでは、【セックス】という概念自体を僕は知りませんでした。

キスという単語だけは知ってましたが、なんのために人がキス行為をするのかもわかってないまま中学三年生の身になっていた僕。道端に落ちてたエロ本との出会いによって脳内ビッグバンが引き起こされ、急加速で【エロ】に傾倒していき、ついには現在の職業に至ったという経緯があります。


そんな清らかな無菌家庭を作り上げてた張本人の口から、『11年間セックスしてなくてせつない』なんて唐突に聞かされても、どう返事していいかわからないです。僕は電話を一旦切りました。



しばし考察……

セックスレスが原因で感情がこじれ、有りもしない浮気を持ち出して母を吊し上げてるってことか。セックスって怖いな……そう思いました。

セックスの話など出したことなかった清廉な父が、急にキャラチェンジして暴走してるのも気掛かり。もしかしたら、痴呆が始まったんじゃ……

母の浮気疑惑、セックスレス、痴呆。色々な情報が一気に流れ込んできて心拍数が上がる。僕は母に電話をかけました。



僕「お父さんさ……もしかして……ボケが始まったとかじゃない?」


母「それは無いと思う。

ちょうどこの間、認知症の検査ば受けに二人で病院に行ってきたとさ。

結果はもう出とると。

先生からは『問題無し』って言われたとよ。」



とりあえずの安心は得たけれど、根本的な解決には至ってない。今度は父に電話をかける。



僕「お父さん、あのさ。お母さんがセックスを拒むのはおかしなことだって言ってたけど、それは間違ってるよ。

セックスっていうのは義務じゃないんだから。

したくないと言ってる相手にセックスを強要しちゃ駄目だよ。合意の上で行われる行為なんだから。

相手からしたくないって言われたんだったら、したくないなりの原因っていうのがある訳で。その原因をちゃんと解消しないと。

だいたいは、相手に対しての嫌悪感が原因だったりするから、二人でちゃんと話し合って、相手が不満に感じてる部分を解消したり、自分の悪いところに自分で気付いて直したり……そうやって距離を縮めるための努力をしないと。

セックスに応じないから悪いって、一方的に断罪するのはよくないよ。

それは昔の九州の考え方だから。」



父相手に、なぜか標準語になってしまった 。標準語で喋らないと心がもたない。肉親相手にこういった話をするのは、リアルな風景が浮かんでくる分、言葉の数だけ身を削られる思いです。

昔の父であれば、ここから頑固さをフルに発揮して、僕が引き下がるまでしこたま反論してくるとこなんだけど、年をとって丸くなったのか、妙にあっさりと引いてしまった。


「そうやろう。そうやろう。

オイの考え方が古いとやろうね。

アンタの言うとることもわかるたい。」



一時間くらい論争繰り広げる覚悟でいたので、ものすごく拍子抜けした。あまりのあっさり具合に、逆にさびしくなっちゃうよ。そんな素直な人じゃなかったじゃん。僕が実家を出た頃の父とは、まるで違う人に感じる。

最終的には、二人の判断に任せることにしました。離婚しようがしまいが、大人二人の自由意志に任せるということで。子どもが口を挟むことでもないだろうし。お母さんに『もしあれだったら東京に移ってくることも考えときなよ』とだけ伝えておきました。




「離婚はしない。」
騒動の二日後に父と母が出した決断です。



今回の騒動で気付きが二つありました。

子供の頃はさっぱりわからなかった【親の気持ち】ってやつが、年を重ねたお陰でなんとなく理解できるようになったってこと。年をとるのもそう悪くないなと思えました。

そして、もう一つ。

あらぬ疑いをかけられぬよう、小便をした後はキッチリと拭いた方がいいってこと。

『アソコがヌルヌル』って言葉は、AVの撮影現場でよく耳にするやつですが、僕は男優として今後一切その言葉を使うことはないと思います。いや、正しくは『使えない』ですね。口に出した途端、色々と思いだしちまうよ!



【今回のおすすめの一本】

映画『モッシュピット』のDVDを観てほしい。

ハマジムからDVDが発売されてます。通常盤とLIVEバージョンの二枚組なんですが、僕がすすめるのは【LIVEバージョン】の方。
http://hmjm.thebase.in/

東京アンダーグラウンドの息吹きを体感できる作品。岩淵弘樹監督が切り取った【東京】が、音と画で伝わってくるはずです。

ハバナイ、ネイチャー、おやホロ。
ザッツ・東京アンダーグラウンド。

この作品の撮影に僕もカメラマンとして参加させてもらったんですが、恵比寿リキッドルームでのライブ撮影のときに、生音を体感したら一発で彼らのパフォーマンスに引き込まれてしまいました。

まさか40を超えて、ライブハウス通いにハマっちゃうなんて思ってもみなかったっす。

黒田悠斗プロフィール

1975年生まれ。

1999年デビューで今に至る。

16年もAV男優やってる馬鹿たれ。

173cm、68kg、AB型、へそまがり。

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