鶴岡法斎の「恥ずかしいココロ」 第4回
2016-03-01
コラムニスト:鶴岡法斎
※前回まで。鬱病で何年間も動けなくなっていたのでさい子ちゃんを好きになることで生きるモチベーションを上げることにした。ていうかさい子ちゃんを好きになった。赤裸々にそれをハマジムのサイトで公開するという行為の続き。


 重い。
 とにかく布団、そしてそこにくるまれている自分の肉体が重すぎた。どうやら悪夢を見ていたのだろう。だがその内容は覚えていない。感情だけははっきりと記憶している。
「死にたくない」
 そう感じてもがき苦しんだのだが、身体も動かないので傍から見たら正午くらいまで寝ていたやつがちょっとうめいているだけ、いや、声も出なかったのかもしれない。ただの寝起きの光景だろうがこちらは信じられないほどの恐怖心があった。何が怖いのかは本当、覚えていないのだけど。
 ちょっと前までさい子ちゃんのAVを見て、一方的な恋愛感情を持つことで安定を保っていたのだけど、安定のためのさい子ちゃんがむしろ不安を生み出している。地獄極楽表裏一体。

 話は遡る。2月10日深夜阿佐ヶ谷ロフトでのさい子ちゃんのイベント。そこで彼女がハマジム専属AV女優でなくなり、プロダクションに所属してこれからもAV女優として活動していくという発表があった。それを伝えてる時、彼女は壇上で泣いていた。
 この時の空気も重かった。
 事前に「ビキニグラマラス 八ツ橋さい子」を見ていたのでハマジムが経営的な事情から彼女の作品を撮り続けるのが困難である、というのは知っていた。だから寝耳に水、ではない。ある程度、そういうこともあるのか、くらい思ってはいたんだけどそれでもショックだった。
 ハマジム専属女優という立場からたくさんのAV女優のひとりになる。群雄割拠の世界に行く。楽な道ではないだろう。なんというかハマジムという擬似家族的な結びつきの強い場所で、紅一点、好きな言葉じゃないけどあえて使うよ、紅一点として存在してるさい子ちゃんに癒やし(と性欲)を自分は感じていたんだなあ、とそこで確認した。寂しい気持ちになった。さい子ちゃんはこれからも活動していく。それはわかっているのに喪失感があった。自分がやっと見つけられた居心地のいい場所がなくなってしまうような。外野の、心底から勝手でわがままな感情。
 客席から誰かの話してる声がする。

「これで専属でなくなるから」
「大手メーカーの集団モノとか」
「ハードなプレイとか」

 そんな会話が聞こえてきて自分は泣いてしまった。誰にも気づかれずこっそり。性的に興奮もした。それも誰からも気づかれなかったはず。
 ハマジム専属でなくなることは寂しいけどこれから他のメーカーの作品でいろいろなことをするのか。華道教室が設定のドラマ物でお尻の穴に生花を挿されたりするんじゃないのか。そういうAVは多くはないのにその時の自分は華道教室と生花を想像していた。普段、何を考えているのか。AVイコール華道教室ドラマではない。
 しかしその時はもう無我夢中で、
「さい子ちゃんが華道AVでお尻に生花入れられちゃうよ」と思って悲しみながら勃起していた。忙しい人間だな、どうも。

 自分はさい子ちゃんの何を好きなんだろうか。ちゃんと話したこともない。流通するAVのなかにいる彼女を見て知った気になっているだけ。ハマジム所属という立場に惚れているのかもしれない。好きになるという感情は一方的なものだけどこれはさすがに程があるかもしれない。ああ、でもどうだろう。AV女優ってのはこうやって自分みたいな奴にどんどん惚れられていくのが宿命なんだろうなあ。本来の仕事っていうか。
 とにかく、自分が彼女のことを好き、なのかな? 気に入ってるって感情はちゃんとあって、それでこちらで勝手に別れの感情を抱いてこれまた勝手に傷ついたり落ち込んだりしている。どこまでも独りよがり自分勝手な一人相撲。そんなことで重たくなって、疲れている。
 自分は本当に独善的で、何もできなくなって言葉を出すことすら困難になっている現状で、一方的に彼女を好きになり、その好きだという気持ちを表に出すことで自分の生きがい、存在証明をしようとしていた。それがこれっぽっちの想定外のことが起きただけでパニックになり、またもとの暗く淀んだ世界に沈んでしまう。
 そういうんじゃないのにね。
 そしてこの段階までさい子ちゃんの思いとか考えとかに対する配慮とかゼロ。本当、自分の話。
個人の思いが重くなって苦しくなってる。勝手に。ただこういうことができるようになっただけでも変われたのかもしれない。「死にたくない」ってうなされているってことは自分の命、存在に執着があるのだから。
 いまも自分は迷走し迂回しているのだろう。ただ確実に動けている。それは以前とは違うと信じたい。
イベントが終わって帰るとき、お店のスタッフがさい子ちゃん宛に届いた大きな花を数人のお客さんにお裾分けしていた。自分はチューリップを一輪貰った。その時も華道教室のAVのことは考えていた。花は家の近くまで持ち帰って、川に流した。
 彼女は旅立った。自分はそれからうなされたり、発作的に恐怖心に苛まされたりしてる。空気が重い。自分自身が軽い。
 終わらして、はじめよう。もう本当につらいから。
鶴岡法斎プロフィール

マンガ原作者、作家。

最初はエロ本のライターをやっていたのですがいろいろあって、ありすぎて現在に至ってます。

会員登録はこちら
  • YOUTUBEのチャンネル登録する