ひらの通信 VOL.4
2015-11-12
コラムニスト:平野勝之
Girls Retro Ride

vol.1

新潟県新発田市での、Girls Retro Ride(ガールズ レトロ ライド)の様子です。主催が東京のTokyo vintage bicycle というお店なので60年代〜70年代ぐらいのフランスの市販車、プジョーやモトベカンなどの女性用ミキストが中心です。エルスやサンジェなどはオーダーメイドなので、そういった自転車は見当たりません。


わかりやすく言うと、当時、フランスのブリジストンや宮田みたいなものです。

古いフランスでの一般のサイクリング車なので、オーダーのように高額ではなく、ヴィンテージでも手の届きやすい値段です。
入門として、お洒落で雰囲気のある自転車が欲しい人には、サイズさえ合えば、最初は、とても良い選択かもしれません。


フレームが今のようにアルミやカーボンではないので、状態が良ければ耐久力もあるでしょう。


女子たちは、すでに自分のものとしている人、または今回は借りてるけど、購入予備軍みたいな人、など、様々です。


新発田市での主催者は、金枡酒造さんで、元自転車屋の帽子屋さんなどが協力していて、古い酒蔵で、前夜祭が行われ、美味しい日本酒が振る舞われます。
また、この古い酒蔵がヴィンテージの自転車の背景には不思議と合うのです。


古い日本建築と古いフランスなどのヨーロッパのものが合うと言うのは考えてみれば不思議な話です。


さらに、古いプジョーなど、それ自体は雰囲気はあるものの、オタク的には(あくまでオタク的な視点です)自転車そのものは「おお!!」って感じではありません。

しかし、女性が跨がっていったん走り出すと、ピタリと「おお!!」となり、そのシルエットが大変美しくなるのが、これまた不思議です。

何か、自転車と女性というのは、合うように最初からDNAが組み込まれているんではないか?と思うほどです。

しかし、女性が本質的に自転車に望む事と、自転車大好き男の妄想との間には、地割れのような激しく深い溝があります(笑)


過去の自転車界で女性の生活に美しい自転車を取り入れたり、女性が自転車との関係において自立したり、と言うのは、ほぼ、ことごとく失敗に終わる、という戦場のごとき悲惨な歴史もあるのです(笑)

ねえ?

自転車大好き男たちには、一度は身に覚えがあるのではないでしょうか?


そういう意味では、こういったイベントは壮大なる実験と言っても良いでしょう。


続く。



VOL.2

コンクールデレガンスの審査員長を任されてしまったので、みなさんの走ってる雰囲気を見ながら選びました。

でも、あんまり厳密に見てはいないんです。少し悩みました。何人かの人にはお話を聞けたので、一応その結果です。


まず、特別賞は男性で、ペダーセンに乗った男性です。ペダーセンという自転車は、ミカエル・ペダーセンと言うデンマークの人が100年ほど前に作った自転車で、今はドイツでKEMPER社というところが作っているようです。
複雑なトラス構造のフレームにハンモックサドルで、のんびり走ると言うスタイルは、今もファンが多いそうです。


彼は全身黒づくめで身長も高く、足首が細く、黒いペダーセンと見事に調和して、その飄々たる本人のキャラクターと、のんびりした乗りこなしがマッチしており、すごく惹かれました。かなりの洒落者と見た。

今は現行のVブレーキが付いているが、できれば古い雰囲気の良いカンティに変えたいと、言っていた。気持ちはわかるけど意外とこの車体なら黒いVブレーキも不思議にマッチしていたので、それほど気にする事ないのでは?と答えた。


また、新潟の古い建物にも風景としてマッチしてて合っていました。彼は元々、京都の人だそうで、京都の町屋の雰囲気にも合いそうです。後で聞いたんですが、職業はなんと!!お坊さん!だそうです!!
そう言われてみると、このスタイルでお経とか読んでたら絶品ですね(笑)僕の目に狂いはないと思いました(笑)


続いての準優勝は70年代前半ぐらいのプジョーのミキストに革カバンをフロントにくっ付けた東京在住の女性です。
このプジョーは借り物ではなく彼女の私物で、なんと、この自転車で週の大半、片道20キロ、往復40キロを毎日、通勤に使用しているそうです。
通勤に使い出して、約1年半だそうで、それまでは自転車には、まるで興味がなかったそうですが、この美しいプジョーで目覚めてしまい、今は楽しくて仕方なく、ほとんど電車に乗らなくなったそうです。
最初の入口はヴィンテージの楽しさから入ったわけですが、お洒落はもちろん、そこだけにとどまらず、現在は真っ当な自転車の良さにも気付いていて、日常に使いこなして、いろいろな事を発見していく、という姿勢を一番評価しました。
モノクロの写真が当時、60年代ぐらいに、彼女の乗っているプジョーと同じタイプのミキストに乗っているフランスの女性です。当時はこんなフランスギャルが市販のプジョーに乗っていたかと思うと、何やら、ロマンチックな気分になりますね。


さて、最後の優勝は、古いタンデム(二人乗り用自転車)に乗っていた二人の女性に決定しました。

このタンデム自転車は、先頭に乗っている女性のひいおじいさんのものだそうです。

新潟の彼女の家は元自転車屋さんだったそうで、家に大切に保管されていた自転車だそうです。

年代は僕にはわからないのですが、おそらく昭和30年代、相当古いものに間違いはありません。
当時の日米富士の、かなり気合いの入ったタンデム自転車だと思います。ところどころ当時の実用車と共通の部品が使用されており、サドルや細かい部品以外は、ほぼ当時のままの姿で残されています。特に鉄のマッドガードに施された美しく凝ったマークやバッチなどが、昔の職人芸の凄まじさを物語ってます。

その佇まいは、今回の舞台である新潟の古い酒蔵とまったく同じで、大変な宝物だと思います。


そんな自転車を若い孫の女性がお友達と一緒にお洒落して自転車にお花とか付けて、楽しく田園や古い街並みを走っている図は、もはや走る宝石です。

ヴィンテージと呼ばれる古いものとのお付き合いの、一番正しいあるべき姿のような気がしました。
きっと、ひいおじいちゃんも、あの世でずいぶん喜んでいる事でしょう。

僕にはそんなおじいちゃんの喜ぶ顔が見えた気がしたので優勝にした次第です。

さて、そんなわけで楽しいイベントだったわけですが、やはりまだまだ課題は多いです。

ガードのない自転車にロングコートで乗っていたり、ハイヒールで乗っていたり、また、借り物だと思いますが、サイズが合わない車体に乗っていたりと、こういうイベントなので、あまり野暮な事を言うのもナンセンスですが、やはり自転車とお洒落は、生活に根差したディテールと説得力、そしてリアリティーは絶対に必要でしょう。

それらをどのように解決していくか?
まだまだ始まったばかりかと思います。




ーーー
番外編

今回、写真の五十嵐君(今年の夏にフランスで世界最大のブルベ、パリブレストパリを1200キロ、80時間以内で見事完走)のお誘いでイベントに参加したわけですが、僕は来年もこのgirls retro rideに参加する事になりそうです。

そしたら、先日、彼から突然の提案がありました。


「ひらのさーん、来年はイベントの前日に谷川岳を走りに行きましょーよー」

「え??」


谷川岳と言うのは新潟と群馬の間に跨がる日本100名山で関越道の関越トンネルにあるかなり厳しそうな山だ。

「昔、軍用の道があったらしいんですよー、大昔に閉鎖されてて。でも自転車で走破した人もいるみたいなんですよー、行きましょうよー」

「行きましょーって簡単に言うけど、自転車でいけるわけ?」

「乗車率40%ぐらいらしいです。」

「笑、じょーだんじゃないよ、それ、ほとんど藪こぎって事だよね?」

「そうみたいです」

「そうみたいですって…1人で行ってこいよ、やだよオレは」

「ひらのさんと行きたいんですよぉー」

「なんでだよ?笑、1人で行きゃいいじゃん」

「行きましょーよ、行きましょーよ」

なんで女の子とヘラヘラ楽しくお洒落に自転車で過ごそうって時に、野郎二人で、そんな壮絶なとこに行かなきゃならんのさ?



「あのね、君ね、ボクは本格的な山岳サイクリングの経験はあんまり無いんだよ、それ遭難するんじゃない?道ってあるの?」

「道、無いみたいです」

「おまえな、それどうやって行くわけ?笑、君だって山岳サイクリングはそんなに経験無いんでしょ?」

「あんま、無いです、でも行きたいんですよ、ひらのさんと」

「それ、二人で死に行けって事だよね?」

「大丈夫ですよ、小屋みたいなのが1つあるらしいです」

「いや、そういう問題じゃなくてさ、いい?よく考えてみろよ、君とは年齢、倍違うんだよ、オレ、ヘビースモーカーだしさ、君とはまず、体力からして全然違うんだよ」


五十嵐という男は、バターとかたっぷり入ったパンを3つとお菓子をひとつふたつ食っても、まだラーメン大盛り2杯は軽く平らげる事ができるというヤツだ、だいたい1200キロを3日と8時間で走破するようなバケモノと一緒にされてたまるか(笑)
たぶんこいつは、体力はあっても、脳ミソは空っぽなんだろう。


「それ、絶対二人で遭難だよ、新聞に出ちゃうよ、51歳映画監督と25歳の自転車店員の男性二人の遺体を谷で発見、チョコとか奪いあった跡が発見された、とか書かれたらどーすんだよ?笑」

「テレビのインタビューとかさ、知り合いとか出ちゃうんだぜ、あの二人なら、こうなるだろうと思ってました、馬鹿だったけどいいヤツでした、とか、いいかげんで、適当な事言われてさー」
「行くなら山岳地図用意してからだ」


そんな話でこの日は終わった。

後日、ツーリングマップで確認したら、谷川岳んとこに「多数の命を飲みこんだ魔の壁」って書いてある(笑)

そんなところを自転車でうろつこうなんて、正気の沙汰とは思えない。
五十嵐と二人でツィードで行くハメになるのだろうか?

来年のgirls retro rideに二人が現れなかったら、谷川岳だけで死んでると思っていい。

借金踏み倒せるかな?(笑)
へたにヘリでも呼ばれて救助された日には、逆に借金増えちゃうのかな?
まあいいや、全部、五十嵐のせいにしよう。



ひらの

※写真を全て掲載出来ませんでしたので、写真をご覧になりたい方は自転車ブログ
Randonneur_in_Dub( http://blogs.yahoo.co.jp/randonneur_indub
をチェックしてください。
平野勝之プロフィール

1964年生まれ。静岡県出身。映画監督。

アマチュア時代より8mmを中心とした映像作品を撮り続け、PFF等で高く評価される。
プロデビュー作はAV「由美香の発情期」。その後、「水戸拷問」「ザ・タブー」といった、ヌケないがひたすらに面白い傑作AVを数多く監督する。
1997年に女優・林由美香との北海道自転車旅行を記録した「由美香」が劇場公開され大ヒット。
その後も自転車旅行を題材とした「自転車三部作」を作り、厳冬期の北海道を自ら走って撮影した「白 THE WHITE」をベルリン国際映画祭に出品している。
2011年11年ぶりの新作「監督失格」を劇場公開する。

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