山口雅のやさしい味噌カツ vol.32
2019-03-08
コラムニスト:山口雅

『世界でいちばん悲しいオーディション』



岩淵弘樹監督による、2018年WACKアイドルオーディション・ドキュメンタリー。これまでずっとWACK合宿の映画を楽しく見てきたけれど、試写を見た後「キャノンボール、やる必要なかったのでは!」と思ってしまった。仕掛けも仕込みも全くないド直球の手法で、アイドル候補生たちの裏も表も見せてくれた今作。
私はできればこの映画、女の子に見てほしい。



「好きになってもらうのって難しい」と、脱落して言葉を漏らす子がいた。
このオーディションの合否基準は曖昧だ。得点制のくせに、それで決まるわけじゃない。「何もしていなくてもOKの子もいる」と映像の中で渡辺淳之介さん自身が言う。

ここに映し出される女の子たちの感情、全部知ってるなあ、と思う。個人的にはこのオーディションのあり方にずっと懐疑的だし、自分探しの話もうんざりする。アイドルにもやっぱり興味がない。それでも女の子たちが笑ったり泣いたり苦しんだりしている感情ひとつずつ全部、身に覚えがあった。
頑張る子が好きだと言われれば、必死でデスソースを自分のお皿に盛る。自分の思いが届かないと知るや否や、手のひらを返す。「最初から好きじゃなかった」とか言い出す。でも本音ではひとつも吹っ切れておらず、そこを突かれると崩れ落ちる。嫉妬で死んじゃうから合格者のステージは見ないと言いながら、その会場に現れる。弱々しく泣いていたはずが意外とタフで、また次の場所へと向かっていく決意もできる。
そういう感情が分かる。行動が分かる。分かりたくないけど分かってしまう。アイドルを目指したことはないけれど、これはもう試験というより恋愛だ。全部、恋愛の中にある感情とおんなじだ。
どうしたらこっちを見てもらえるのか。自分より綺麗な子、能力に優れた子もたくさんいる。それでも私に気づいてほしい。振り向いてほしい。彼女たちはその一心だ。



本来、合格はゴールインではなく、その先の方がずっと大変に決まっている。結婚がハッピーエンドの少女マンガとは違う。落ちても受かっても人生は続く。その先の景色までしっかり見えている現メンバーの冷静さや優しさも、よく伝わった。
そしてオーディションは恋愛ではない。一連の合宿ドキュメンタリーを見てきても重ねて考えたことは、私も今までなかった。
これまでに見たWACKの映画では、女の子たちはあくまで「相手方」であり「敵」だった。カメラを持つAV監督たちと彼女たちの距離感覚は、そのまま観客である私の視点にもなっていたのかもしれない。今回、岩淵監督は女の子たちと対峙するでもなく、寄り添うでもなく、切羽詰まっている女の子たちの揺れを、ただ真っ直ぐに収めてくれた。
可愛いところも醜いところもひっくるめて、私はここに出てくる女の子たちみんなが愛おしい。一人一人の肩を抱いてあげたくなった。女の子って、本当に素敵だと思う。



――と、素敵なガールズ・ムービー風にこの映画を見てしまった私ですが、名古屋シネマスコーレではドキュメンタリー監督お2人が岩淵監督とのトークに登壇されました。旧知の間柄で交流の深い松江哲明監督・カンパニー松尾監督。彼らはこれをどう見たのか。ちょこっとレポをお届けします!

***

松江:最初に出る松竹マークの風格に、編集の切れ味が負けてないです。たくさんある素材から選び抜いたカットなのが分かるし、岩淵くんのテーマが一貫しているのがすごく良いと思った。『遭難フリーター』では自分にカメラを向けて、工場で「サルでもできる仕事」をして鬱屈する気持ちを映画の中で表現していた。今回はオーディション不合格の人をしつこく撮っている。それがだんだん見えてきて「わ、遭難フリーターの監督だ!」と(笑)。ずっと見てきて良かったなあという喜びがあったし、それが映画の新しい切り口になっていた。松尾さんが撮った『アイキャノ』やBiSのドキュメンタリーとはまた違う切り口を、岩淵くんはこんなふうに見つけたんだと感動しました。

松尾:編集に関しては、ここ2年くらいでだいぶ切れ味鋭くなったと思う。あまりに研ぎ澄まされてて、おじさんは心臓バクバクしちゃった。この映画、途中で休ませてくれないんですよ。一回もブレイクさせてくれない(笑)。女の子がヒーヒー一生懸命走ってるところがしんどくて、見てる人もつらいくらいの編集をしたんだなと。編集の詰め込み方と切れ味がすごかった。

松江:僕はデスソースのところがそんな感じでしたね。だから一週間の話には見えない。24時間連続で撮り続けたみたい。

岩淵:登場人物が30人くらいいるんですが、すごい情報量を一息で見せたくて。誰かにフィーチャーせず、まんべんなく見せたかった。今のお客さんは情報処理能力が速いので、スピード感も意識しました。

松江:あの子たちは合格を目指して合宿に来るけど、対策を勉強してくる子はいないの?

松尾:一応、事前に課題曲も渡されてる。「何も勉強してこない奴はありえない」と渡辺さんが瞬時に判断してる。

松江:単に能力を競うなら勉強すればいい。でも、しすぎても落ちるんだろうなというのも見えて。

松尾:そう、落とされる(笑)。実は渡辺さんが合否を全部握ってるからなんです。ニコ生投票だけでやるなら分かりやすいけど、全部渡辺さんの采配。誰が残るか分かりづらい。

松江:独特ですよね。合否の基準があるようでない。だからドキュメンタリーとしては問いにくいと思うんです。

岩淵:そこはもう無視しました。落ちるのも受かるのも渡辺さんのジャッジです。それはもう理不尽。テレビの企画だったら分かりやすく理由を見せなきゃいけないんでしょうが、全部グレーなんですよね。

松江:「なのに、なんでこの子たちは来てるの?」とも思うんです。確固たるものがないのに、そこで認められたい。すごく今の日本っぽいと思うんです。

岩淵:例えば就職試験にも見えるじゃないですか。アイドルなら他にもあるのにWACKを選んでくるのは、もちろんWACKが好きだという気持ちもあるだろうけど打算もあると思うんです。売れなくても踊って歌って楽しくしたいなら、地下アイドルでもいい。

松江:ここなら何か認められるかもしれないという。

岩淵:WACKのアイドルになりたいんですよ。WACKを踏み台にして芸能界で成功しようとまで考える子はいない。それが就職試験ぽいんですよねえ。



松江:これ、視聴者は配信で見てるんでしょ。ニコ生中継があるのはドキュメンタリーにとって不利じゃないですか。すごくやりにくいと思う。ライバルというか邪魔だよね?

松尾:むちゃくちゃ不利です。やりにくいどころか、もう負け戦。だからWACKオーデは難しいんですよ。俺も以前「そこに映らないものを」と思ってやっていた。

岩淵:ニコ生どころじゃないです。俺は音楽ライブの仕事でも撮影してるけど、その日のライブをお客さんが撮ってUPしちゃうわけです。そういう時代になっちゃってる。そこに対抗するには編集や音をきちんと処理したり、こっちにしかできないことをより洗練させていかないと無理。俺は、もはやニコ生を気にするどころじゃないんですよ。

松尾:フェリーが欠航して脱落者が帰れなくなり、わざわざフェリー会社の人にインタビューに行ったのが良かったね。あれがある限り大丈夫なんです。裏付けを取りにいくのが岩淵のいいところ。その場で起きたことは中継で皆が知ってる。「もし俺たちがやるなら」というところでのインタビュー。さすが岩淵さん。

岩淵:嵐が来て帰れなくなって、脱落した子が復活するシーンがあるんです。ニコ生では「奇跡だ、カミカゼだ」とか言われてたけど、フェリーの人に聞いたら「荒れ具合は10段階でいうなら6」ってね。大したことなかったです(笑)。

***

実際は一時間以上も続いたこのトーク、「ニコ生の前でドキュメンタリーは負け戦」とか言ってる先輩たちを「俺はニコ生どころじゃないんだ」と一蹴した岩淵監督が、大変カッコ良かったです。
映画は現在まだまだ全国上映中です!



『世界でいちばん悲しいオーディション』
出演/オーディション参加者、モモコグミカンパニー、アイナ・ジ・エンド 他
監督/岩淵弘樹 プロデューサー/渡辺淳之介 撮影/バクシーシ山下、西光祐輔、白鳥勇輝、エリザベス宮地、岩淵弘樹
配給/松竹メディア事業部  2018年/98分/ヴィスタ/2.0chステレオ ©WACK.INC
山口雅プロフィール

名古屋市在住、会社員。

世界の片隅でタウン誌や映画誌の編集をしています。

2014年6月「テレキャノ名古屋非公式BOOK」をきっかけに、『劇場版テレクラキャノンボール2013』Blue-ray特典ガイドブックを取材編集。
名古屋の自主上映主催は2014年12月「アラウンド・ザ・テレキャノ」「テレキャノ英語版」「バクシーシ山下の社会科見学」「劇場版 どついたるねんライブ」「カンパニー松尾の世界」など。
非公式BOOKも上映のたびに作り続けてます。

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