山口雅のやさしい味噌カツ vol.29
2018-05-23
コラムニスト:山口雅
餅は餅屋。『裏アイドルキャノンボール2017』を見終わって最初に浮かんだ言葉です。
なんかホッとしました。ハマジムさんはちゃんとAVメーカーでした。安心しました。

この作品はオーディションに潜入予定の「ハマジム枠」の女の子が、事前準備のためカンパニー松尾監督と名古屋へ行くシーンから始まります。
これは私が名古屋で企画した松尾監督の上映会に重ねた名古屋行きです。「彼女が初めてBiSを見た」というミニライブは、上映会を成功させたい私が宣伝に行くことを提案したものです。
もちろん企みは知りませんでした。でも彼女の存在は知ってました。デカいスーツケースを引く彼女を行く先々で目にしていた。で、その後はすっかり忘れてました。
彼女を次に見たのは、オーディションの中継です。候補者一覧の中に彼女がいた。
え? このオーディション、何ですか?…
全貌は分からんし、知りたくもない。不穏な空気がすさまじく漂ってる。
キャノンボーラーすら全員が知らされていなかった「レースにおける重要機密事項」に、私はどうやら気づいてしまった。しかし私がそれを知ってることで得する人は誰もおらず、私もオーディションが楽しめない。ならば忘れることに努めました。
私はとても困ってました。ボールガールも葛藤したかもしれないが、私だって困っていた。松尾監督も『裏』の発売が待ち遠しかったでしょうが、誰にも話せなかった私も、早く出してもらって楽になりたかった。
とりあえず「あの子がハマジム枠?!」という驚きは、私にはありませんでした。

ハマジム枠女性と横浜キャノンボール以降に焦点を当てた『裏アイキャノ』。
岩淵さんの必死の頑張りと攻防は「初H前夜のカップルあるある」ぽくて面白かった。でも松尾隊長の、レースを全て理解している相手を引っ張りこむのは、ちょっとなんだかなー。「単にポイント稼ぎだけのエロレースじゃない」のもキャノンボールの意義かと思っていたので、拍子抜けする部分もありました。
でもまあ、ヌケる要素があるに越したことはないんだろう。手堅く収まって良かったと思います。
場面場面での細かいことを言うとキリがないのでやめときますが、最高にカッコ良かったバク山さんについてだけ。ウイニングファックに至っても奥さんへの純潔を主張し続ける岩淵さん。「俺は奥さんのアレが一番好きなんすよね」という岩淵さんに、山下さんが言う「誰だってそうだよ」には、痺れましたよね。山下さんってほんと格好イイな! と思いました。劇場版では「結婚制度を信じてない」と言ってたくせに、コレですよ。最高です。

全編通じて引っかかったのは「面白いことがしたい」。この言葉が何度もいろんな人の口から出ることです。
「面白いことがやりたい。極端なことしなきゃ」というボールガール。「面白いことがしたい」というツイッターの女性。「こうすれば面白い」と話し合う岩淵さんとWACKファンの女性…。
みんな「面白いこと呪縛」にかかっている。面白いって、何だろう。考えてしまいました。

一番その言葉に呪われているのは、ボールガールだと思います。劇中で渡辺淳之介氏が「面白い」について見解を語りますが、彼女のいう面白さはあくまで本人から見た面白さであり、カメラを通じた他人の視点での面白さとは違う気がする。
彼女は自分探しの真っ最中といったところ。空気を読み、人に合わせて笑い、あるいは泣きながら、事あるごとに出る「私でいいんでしょうか?」。わかってない奴だと思われるのが怖くて自信がないから、私わかってますという顔で笑って受け入れてしまう。
「できる?」と聞かれ、何でも「やりたいです!」と即答するのも、いつも先回りして喋るのも「本当にそうなの?」と聞きたくなる。キラキラしたアイドルだって、自信のなさを隠しながらステージに立ってるんじゃないかと思うのです。
決めつけてますが、私も身に覚えがあることです。だから多分そう見えてしまった。このハチャメチャな経験が、彼女自身にとって「面白いこと」になってればいいな。図太く生きてってほしいなあと、余計なお世話ですが思います。
自分探しの旅の一つにAVを選ぶ女の子は少なくないんじゃないかな。百戦錬磨のAV監督さんたちは丁寧に彼女の話に付き合っていて、安心もしました。

そんなモヤモヤとした感情を抱いていたところに、コレです。
「AVは 射精終わればすべて良し」
このテロップに、いろんなものが集約される気がしました。奥深そうでテキトーっぽい五・七・五を噛み締めました。なんかズルイ。でも、この『裏アイキャノ』はそんな感じ。大きなうねりやグルーヴ感には欠けるけど、安定感ありました。
これまでのアイドルシリーズで自分たちのフィールドに持ち込めず、苦しそうだったキャノンボーラーの方々は、今回やっとAVのプロの顔を分かりやすく見せてくれました。
でも現実世界はAVじゃない。面倒くさいこともいっぱいしなきゃいけない。「面白いこと」も探さなきゃいけない。私でいいんでしょうかと泣きたくなることもあります。

AVはいいものだなー、と思いました。なんかホッとしました。
餅は餅屋です。水を得た魚のように、勝手知ったるAVの世界でいきいきとしているAV人たちの姿を見るのは安心する。
でも、私は蕎麦屋のカレーも好きなんです。ホッとしてる場合じゃない気も、する。
山口雅プロフィール

名古屋市在住、会社員。

世界の片隅でタウン誌や映画誌の編集をしています。

2014年6月「テレキャノ名古屋非公式BOOK」をきっかけに、『劇場版テレクラキャノンボール2013』Blue-ray特典ガイドブックを取材編集。
名古屋の自主上映主催は2014年12月「アラウンド・ザ・テレキャノ」「テレキャノ英語版」「バクシーシ山下の社会科見学」「劇場版 どついたるねんライブ」「カンパニー松尾の世界」など。
非公式BOOKも上映のたびに作り続けてます。

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