山口雅のやさしい味噌カツ vol.24
2017-08-08
コラムニスト:山口雅
昔見たテレビドラマに、こんなのがありました。
AからHまでのアルファベットが名前につく8人の男女が登場し、それぞれ片思いの恋に落ちる。AさんはBさんを、BさんはCさんを、CさんはDさんを好きになる。必死で相手を振り向かせようと奮闘しますが、物語の中盤でクルッと全員が方向転換。片思いの矢印の向きが全部リバースし、「この人を愛してる、この人しかいない!」と己の愛を確信していた人々が、CさんはBさんを、BさんはAさんを追いかけるという恋愛コメディでした。
命がけの恋や愛って、他人から見ても「はぁ、そうですか」てなモノなのに、本人にとってすら案外そんなものかもなぁ、と思います。思い込みと勘違いとタイミングが大きな要素。
なーんて言いつつ、私も渦中にあると「この人しかいない!」と右往左往し、夜な夜な枕を濡らしてしまうわけですが。

「真実の愛、本当のセックス」を見せたいリアルカップルが出演する梁井一監督『True Love』から一年。まさかの続編『True Love 2 プライド』です。
前作の登場人物は付き合って11年の恋人同士、榎本南那さん・山南景介さん。今作の主役は、山南さんとその本妻・岡井りえさん。
前作の二人は、実は不倫カップルだった。彼らの身に起きたこと、まさに「事実は小説より奇なり」な衝撃の内容が明かされます。

ドロドロ愛憎劇ですが、前作を見ていなくても分かるようになってます。新たに持ち込まれたややこしい事情が開始10分で把握できる編集も素晴らしい。「え?」「え?」「え?」と引き込まれ、あまりの面白さと時々やってくる胸いっぱいの感情の波に、何度も耐え切れなくなりました。で、相当エグい話なのに、なぜか鑑賞後はほんのり嬉しい気分になった。前作『1』はあんなに疲れたし、恐ろしかったのに。それは梁井監督の、被写体の見つめ方の違いによるものじゃないかと思いました。

以前コラム(vol.13)に『1』を見た感想を書きました。コワイ、コワイと連発しましたが、この『2』は全然、怖くなかった。
前作も今作も、梁井監督は淡々と「真実の愛」を訴える人々を撮り続けています。主役も、再び大阪カップル。もしもこれが東京カップルだったら、印象は全然違っていたでしょうね。サービス精神旺盛で、どギツイ話の数々もどこかトボけて人情味あるのは、ザ・大阪人ゆえかも。
そんな彼らをカメラで見守る梁井監督が、この『2』では、彼らを肯定している。

私が『1』で何より怖かったのは、底が見えない梁井監督でした。
長時間に及ぶ熱いセックスを撮った後、ジッポの乾いた金属音を響かせる梁井監督でした。
「黙っていても真実の愛が滲み出る」榎本・山南カップルのジャケ撮影で、白々しく尾崎豊の「OH MY LITTLE GIRL」を流しちゃう梁井監督でした。
それが今回、なんだろう。「誰のことも否定しない」という目線が、すんごく伝わってくるんですよ。
理由は分かりません。梁井さんが男として山南さんに感じるシンパシーなのか。
妻に見られながら、女の子とセックスをするダンナ。私ですら、これを見ながら何度も「AVを仕事にしている男性の奥さんがもしも現場を訪れたら、彼らはどんな顔になるんだろう」と思いました。男の立場で見ると、相当キツイと思いますよ。「どっちが気持ちイイ?」と二人の女性に詰め寄られ、「両方、サイコー!」と苦しさ全開で叫ぶ山南さんに、バカだなぁと思いながらも、でもまあ、分かるよ…。とも思いました。ひどい仕打ちを受けた愛人を、それでも愛しく思う気持ちも、男としては多分本当なんでしょう。
山南さんと再会後、すぐに梁井さんから彼の心境に寄り添った発言が出るところもちょっと驚いたし、あのラストをあえて繰り返すところにも、梁井監督が彼らに抱く愛情を感じます。「ホントしょうもないけど、憎めんわ」というラストだと思いました。
それぞれの人が真剣に「実はやらなくてもいい、やる必要のないこと」に挑む姿に何らかの思いを抱いたのでしょうか。奥さんの思いも丁寧にすくっていると感じたし、二人を試す役目を与えられたAV女優・橋下まこさん(本当に素晴らしい!)の機微を大切に伝えたい気持ちも、十分に伝わりました。本当に『1』とは、感触が全然違う。
映ってるモノと思ってることが一致して、被写体に愛がこもってる梁井作は、私はちっとも怖くないんですよ。

夫婦と橋下さんの3人、いや、梁井監督も含めて織り成す真剣勝負、私は何度も泣いてしまったし、それぞれに心から「お疲れ様でした!」と言いたい気分になりました。
だけど、やっぱり「これがTrue Loveで、Trueセックス」かどうかってことだけは、見てても正直よく分からなかった。ただ、「私だけが知っている彼の秘密」「僕だけが知っている彼女」にそれぞれがやたらこだわる姿は、時に揺らいでしまう自分の大切な証明書なんだなと思います。時々それを取り出して、ポケットに戻しては「真実の愛」の存在を信じ続けたい。きっと私もそうです。世の中のどこかにあるかもしれない、ないかもしれない、伝説の呪文。

そして前作で榎本さんが口にし、今作でも岡井さんと山南さんが口にした「人生捨てたもんじゃない、生きててよかったと思わせてくれた人。この人に自分は救われたから」という言葉は、とても信じられる。そういう相手をかけがえなく思い、感謝し、ずっとずっと大切にしたいと思う。よく分かります。それが「真実の愛」かどうかは別として。

そしてもうひとつ、これを見て確信したこと。「嫉妬とプライド」というのは、「愛」よりもよほど強い行動を起こさせる原動力であるに違いない、と思ったのでした。



山口雅プロフィール

名古屋市在住、会社員。

世界の片隅でタウン誌や映画誌の編集をしています。

2014年6月「テレキャノ名古屋非公式BOOK」をきっかけに、『劇場版テレクラキャノンボール2013』Blue-ray特典ガイドブックを取材編集。
名古屋の自主上映主催は2014年12月「アラウンド・ザ・テレキャノ」「テレキャノ英語版」「バクシーシ山下の社会科見学」「劇場版 どついたるねんライブ」「カンパニー松尾の世界」など。
非公式BOOKも上映のたびに作り続けてます。

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