山口雅のやさしい味噌カツ vol.22
2017-06-07
コラムニスト:山口雅
カンパニー松尾監督もファンを公言するキム・ギドク監督の映画『STOP』。
5月からやっと日本公開が始まりました。ギドク監督が韓国から一人で日本に乗り込み、脚本・撮影・録音・編集・配給までこなした自主映画です。
テーマは福島の原発。世界で物議を醸し、日本での公開は困難とされ、もう私も見ることを半分あきらめてました。
その『STOP』が現在、名古屋シネマスコーレで公開中です。シネマスコーレの支配人が大絶賛して6月3日から23日まで、3週間にわたり上映されます。
これにはギドク監督がたいそう喜んでいるそうです。

でも「何て言っていいか分からない」が、見た直後の私の感想でした。一緒に見た知人はそれに同意してくれ「まずは『見た』という事実しかない」と言ってました。
誰かと話したいような、何も話したくないような、どう整理したらいいか分からない複雑な感情でいっぱい。映画自体は非常にダイレクトです。ギドクさんのメッセージはストレートで分かりやすいのですが、受け止め方にとても戸惑いました。
ヒントがあるなら欲しくなりましたが、この映画にはパンフが存在しません。解説的なものも、何もない。ギドク監督がギリギリで、体ひとつで作った映画です。
だったらパンフ代わりとはいかないまでも、この場を借りて、何かの足しになるならば。映画を見たけど何て言ったらいいか分からない誰かのために、もう少しこの映画にまつわる話を聞きたい私のために。
出演とプロデューサーを務めた合アレンさん、主演の夫役・中江翼さん、謎の政府役人を演じた田代大悟さんにインタビューをお願いしました。今回はそれをお届けします。

***

− 『STOP』との出会いは?

アレン:ギドク監督に「日本でこういうのを撮りたいんだけど、手伝ってくれないか」と言われた2014年の企画段階から手伝いをしています。本人は一人で福島に行き、構想ができてました。原発事故直後に脚本を書き始めたギドク監督は「外国人の自分がこれを出していいのか」と、ずっと迷っていました。3年後、制作を決めても支援が得られず、極秘で撮ろうと決意したんです。私は小道具の調達や俳優探しをしました。俳優は何人かの動画や写真を見せて、監督が選びました。

− 中江翼さん、田代大悟さんのオファーはどんな形で?

中江:元々知り合いだったアレンちゃんから連絡が来て、台本を読みました。どの役かも分からない状態でしたが、重いテーマなのでちゃんとリサーチしたくて、翌日すぐ福島に行きました。立ち入り禁止区域も無理言って入れてもらった。一日がかりで調べて東京へ戻り、次の日に初めて監督と会いました。それが撮影の2日前です。監督とディスカッションした後「ところで、僕はどの役でしょう?」と聞いたら「主役でお願いします」と。
ずっと「やるなら覚悟を持って主役しかやりたくない」と思っていて、そのつもりで福島リサーチも行きました。最終的に決めるのは監督ですが。

田代:僕はアレンさんと共通の知人から紹介されて、新宿西口の喫茶店に行ったらギドク監督がいた。「こんなとこに?!」という小さなスペースでした。
僕は大衆演劇の舞台や時代劇をやっていて、以前は映像もやっていたので「こんなチャンスはない。自分でいいんですか?」と。「作品が作品だから」と言われたけど、福島で子役を教える仕事もしていた時期で、福島は震災前から身近でした。「福島の子たちの将来のために発信する仕事ならやりたい」と伝え、決まった時は嬉しかった。不安も大きかったです。言葉の問題や「世界のギドクさんの演出についていけるのかな」と悩みました。

− 上映も困難になった内容ですよね。出演の迷いや葛藤はなかったですか?

中江:一切なかったですね。エンタメって社会貢献の一面もあると思うんです。この時代に生きている僕たちは3.11を経験した。全ての生物にとって地球規模の大事件。僕は台湾でも俳優活動をしてるんですが、3.11は日本で仕事を終えた飛行機の中で起きたんですよ。
台湾の空港に着き、台湾のマネージャーから電話で「日本で地震があったみたい」と。テレビをつけたらあの映像でした。あの衝撃はみんな覚えてると思うんです。今の時代に生きている人は、心で理解している。でも100年後の人たちは歴史の1コマでしかない。映画を残すことで、当時の人はこういうことを考え、こんな怖い思いで生きていたんだと、心で理解できるツールの一つになると思う。俳優として何ができるかずっと考えていた時にこの話が来て、迷いなく即決しました。100年、200年後の人たちに伝わる映画になれば嬉しいし、今から努力していけるんじゃないかと思っています。

田代:そうですね。それを韓国の監督が表現することに関われるなら幸せでした。「今後の仕事に影響あるんじゃないですか」と聞かれるんですが、正直そこまで頭が回らなかった。僕の中ではチャンスでした。被災地支援ボランティアに行く俳優とかいますけど、あれは自分で自分のことができる人。僕は金銭的にもできなかったんです。「俺でよければ出してほしい」という思いでしたね。

− 私たちは3.11を体験した。だからこそ、映画とのズレも感じると思うんです。レビューもいろいろ見たんですが、はっきり賛否が分かれてますよね。あの事故を忘れないというメッセージや制作の姿勢が評価される一方で、韓国人のギドク監督から見た日本とのズレや違和感もある。正直、ツッコミどころも多いと思ったんです。

中江:うんうん。

− でも、ギドク監督の伝えたいメッセージははっきりとあって、とにかくそこへ行きたい。そのためには全部すっ飛ばしてもいい。細かいリアリティは問題じゃなく突き進む、分かりやすくて熱くて、ダイレクトな映画だなと思ったんです。
脚本を読んだり撮影する中で、日本人としての違和感はなかったですか?

中江:あの…(笑)。

田代:まあ、なぁ(笑)。

− カップラーメン一つ取っても不思議で。

中江:辛(しん)ラーメンのこと? あれは俺も思いましたよ(笑)。日本にないし! 

田代:「日清じゃダメか?」って(笑)

− 見てて、そういうのがいっぱいあったんですよ(笑)。

中江:いっぱいあるね(笑)。いっぱいあるけど、監督はそこまで重要じゃないんですよね。細かい話はもちろんしたけど、伝えたいものがドカンとある監督にとっては、重要じゃない。

− やっぱりそうなんですね。

中江:そうそう。全然重要じゃない。

アレン:編集も「ここは違うから直してください」といろんな人から来たんですが、監督は「この映画は自分が一人で撮って、失敗もいろいろあるけどメッセージは伝わるからいいんだ」と(笑)。妊婦のお腹が急に大きくなったり、なくした靴をまた履いてたり。分かってるけど、いいんだと。

中江:編集でつなげたら逆になってるんです。でも監督の演出の一つだから全然いいと思う。僕は香辛料アレルギーで辛いものが食べられなくて(笑)「監督、日本に辛ラーメンはないよ!」と言ったのに辛ラーメンが出てきて。

− 嫌がらせみたいですね(笑)。

中江:監督が辛ラーメンをシンクに持ってって、水をジャーッと入れて「OK!」と。薄めたら辛さだけが際立つ(笑)。カップラーメンを温めるシーンも、鉄のスプーンがめっちゃ熱いし危険なんですよ。「電気が流れてる時にスプーン2本くっつけたら爆発するからね」って。ショートして爆発しちゃうんです。拷問かと思った。カットの瞬間「コンセント抜いてー!」と叫びました(笑)。事件やハプニングはいっぱいあったけど、いいんですよ。

田代:キムさんは怖い人、過激な人のイメージで、僕もそう思ってたけど、基本笑顔で優しいんです。

中江:菩薩です。俺のイメージは仏ですね。悟りの境地。

− でも今の話だと、顔は仏でも、やらせてることは鬼ですよね?

中江:それは映画のためだから全然大丈夫(笑)。全く怒らないんです。

田代:通常の撮影はカメラや照明、いろんなチェックをしながらずっと待ってて「アクション!」と撮影する。それが一切ないのも想像と違いました。モニターもない。監督が自分のレンズで見たものしかない。僕らは分からないわけです。逆に良かった。

中江:やりづらさは全くなかった。夜、走るシーンで、監督が一人で撮影、録音、照明だしピントが合わなくて何回もやり直したんです。「一人で回してるからダメなんだよっ! 今のは通訳しないで!」とか叫んだりしたけど(笑)全然平気。
通訳はいたりいなかったりで、スマホでGoogle翻訳でした(笑)。俺と、奥さん役の堀夏子さんと監督の3人で新宿を歩き回って、堀さんが「心の準備を20分ください」と言うから「じゃ俺らは別のシーン撮りにいこうぜ」って2人で撮りに行ったり。 

田代:監督がやりたいようにやったのが『STOP』です。撮りたいように撮る中で、僕らがついて行かせてもらったという感じでしたね。

− 一体になれた現場なんですね。自主映画グループみたいな。

中江:本当にそうだと思います。

アレン:そういう熱だったね。巨匠が撮ってるというより「みんなで撮るぞ」って感じ。

田代:自主映画と違うのは、世界で名の通った監督がこのテーマでやったところ。外国から一人で来て撮るって本当にすごい。しっかり作り、完成後も伝える努力をする。監督の思いが伝わってきたので全員が自主的にやってました。

アレン:本人の思いが一番強いから、みんなを引っ張るんです。

− 感想の中に「ギドクの名前を外したら、この映画はどうなんだ」というのがあって、なるほどと思ったんです。でも、外す必要もないなとも思ったんですよね。ギドク監督が一人で全てやろうとしたことも丸ごと含めたものがこの映画で、わざわざ外さなくてもいいんじゃないかと。

中江:うん。何もなくなっちゃいますよね。彼から出てきている芸術の一つだから。みんな表現したいものがあるから作り、それがその人のアートになると思う。

− 一人でやっている弊害として、例えば撮影の荒さとかも、あるとは思うんです。

中江:それはね、仕方ない。仕方ないし、その通りです。監督も分かってる。

アレン:「ごめんなさい」って言ってました(笑)。でも画面から伝わるパワーやエネルギーが他の人には出せないと思う。不思議だけど、同じように撮ってもあんなふうにならないんですよね。

− ベンチに座ってるだけのカットが『悪い男』みたいになってましたね(笑)。

田代:男がヒドイって意見も、わりと受けました(笑)。

中江:見た人によく言われました。「あんな無責任な『大丈夫』はない」と(笑)。「男は大丈夫しか言えないよね」と言ってくれる人もいた。いろいろ言ってもらえるのは嬉しいです。ちゃんと見てくれた。いい映画なんだと思う。

アレン:穏やかで綺麗な映画なら、ここまで議論は出ない。それが監督が本当にやりたかったことなんですよね。

中江:世界で賞も獲った人が、今これを一人で撮るって、すごい勇気だと思うんですよ。何か失うかもしれないのに、そこまでして撮りたい。すごいことです。その情熱と芸術性を俺は本当にリスペクトしてます。常にチャレンジし続けてる。普通できないですよ。

アレン:本当はいろんなことができるのにね。すごく頑固な人なんです。

中江:フラットに同じ目線で話してくれて、キム監督の家に行った時、「甘いから食べなよ」と柿を取ってきてくれたり。

− 近所のおじさんですね(笑)。

中江:そう(笑)。こうなりたいなと思いました。僕の人生の中ですごく価値のある出来事の一つになりました。

− この映画は、韓国では公開されたんですか?

アレン:12月にソウル中心地のシネコンで3日間。トークイベントもやり、イ・チャンドン監督も来てました。最初、監督は韓国では上映しないと言ってたんです。この映画を作った目的の一つに、今、韓国のシネコンでは大手の作品しかかからないことへの不満もあったようで。

− それは日本も同じですね。

アレン:そうですね。だから今の状況に負けず「僕一人でも撮れるから、若い監督たちもどんどん映画を撮ってほしい」と。
本当に、いろんな思いが詰まった映画なんです。

***
『STOP』
2011年3月11日、東日本大震災が発生。福島第一原発の5km圏内に住む、出産を控えた夫婦を描く問題作&衝撃作。売上は福島と熊本に寄付される。6/24〜横浜ジャック&ベティ、7月・大阪第七藝術劇場など順次公開。
監督・脚本・撮影・録音・編集・配給:キム・ギドク
出演:中江翼、堀夏子、武田裕光、田代大悟、藤野大輝、合アレン 他







山口雅プロフィール

名古屋市在住、会社員。

世界の片隅でタウン誌や映画誌の編集をしています。

2014年6月「テレキャノ名古屋非公式BOOK」をきっかけに、『劇場版テレクラキャノンボール2013』Blue-ray特典ガイドブックを取材編集。
名古屋の自主上映主催は2014年12月「アラウンド・ザ・テレキャノ」「テレキャノ英語版」「バクシーシ山下の社会科見学」「劇場版 どついたるねんライブ」「カンパニー松尾の世界」など。
非公式BOOKも上映のたびに作り続けてます。

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