山口雅のやさしい味噌カツ vol.20
2017-03-17
コラムニスト:山口雅
『WHO KiLLED IDOL? −SiS消滅の詩−』。
もともとアイドルの知識もなく、アイドル誕生も消滅も、特に興味ない。そんな私から見た『SiS消滅の詩』の話です。

アイドルグループ「BiS」再結成オーディションの不合格者が、公式ライバル「SiS」を結成。お披露目ライブに漕ぎつけるも、なぜか一夜限りで解散。理由はSiS責任者の清水さんという人が、ある背任行為を行ったため。その顛末を追った…という、エリザベス宮地監督のドキュメンタリーです。

登場人物、わんさかいます。オーディションに落選した女の子たち、それを取り巻く撮影チーム含めた大人たち、業界に入りたいインターンの女子大生。彼ら彼女らが入り乱れ、まさに狂騒曲を奏でます。事態は転がり続け、予想外のことが起こり続ける。
こんなにたくさんの人が出てくるのに、誰にもまったく感情移入できませんでした。「はぁ?」と問いかけたくなる言動と展開が山積み。映画の中の人たちはもれなく全員が翻弄し翻弄され、それを見ている私も大いに翻弄されました。映画を見ている間中、ずーーっと私は画面に映る一人ひとりに怒り続け、イライラし続けてました。もう、ワナワナしっぱなしの105分!
こんなにワケの分かんない物語を、宮地監督、よくぞまとめ上げたなあと思います。
私もいっぱい振り回された。それはつまり、面白かったってことです。

アイドルたちの仕掛け人は、プロデューサーの渡辺淳之介さん。いわば諸悪の根源です。
この映画に登場する人々はとにかく全員、渡辺さんのことが大好きです。誰もが彼を好きで好きでしょうがないらしい。彼が何か言うたびに場の空気が一瞬にして変わる。この人によって物語はあっちに転がりこっちに転がり、大きく振り回されていく。決して姑息なタイプの人ではなさそうです。彼自身も涙を見せたり、怒ったり、考え込んだり、揺れる姿も隠さない。でも最終的に私の頭にしっかり残っているのは、渡辺さんの高笑いです。「私は騙されないぞ」って思います。この「人たらし」は、信用ならない!

そしてこの状況を「戦争なんだよ、戦争!」とカッコよく、デキる大人っぽく言い続けるカンパニー松尾さんも、なんかヤダ。正しいのかもしれないけど、ちょっと待てと言いたくなります。正論に対抗できないもどかしさ、あります。かといって、風にゆれる柳の枝よりも頼りない清水さんという人もダメすぎる。あっという間に長いものに巻かれていくSiSのメンバーもおかしいよ! ついでにいうと、打ちひしがれてるインターンの山下百恵さんに「ねーねー、彼氏いるの?」と絡んでいく岩淵さんもキライです。もー、ほんとに全員、好きじゃない! 渡辺さんが言う「頭おかしい世界なんだよ」という言葉は、その通りなのかもしれない。で、それで何となく納得してしまうのがまたムカつきます。もー、どうしたらいいんだ。イライラするし、モヤモヤするし、整理がつけられないし、この映画、すっごく面白いと思います。私は翻弄されたい。これはアイドル映画のフリをした恐ろしい映画です。

誰にも心を許せないこの映画の中で唯一、「ウンウン、そーだよね」と私が理解できた人がいました。それはこの変な世界の外にいる女の子2人組です。夜の芝公園で寝っ転がって「アイドル? 変態でしょ」と笑い、「アイドル並みの容姿があれば一般社会にいた方がずっといいよ」と言い切る、完全部外者の女子たちです。映画の成り行きに困り果てる宮地監督を「女の涙? 演技に決まってんじゃん!」とバッサリ切り捨てる彼女たちだけが信用できると思いました。私もそう思う。

『SiS消滅〜』の前フリ的な役割も担うカンパニー松尾監督の『BiS誕生の詩』。二つの映画はセットのようになっていて、比べるものではないけれどつい比べてしまう。
『誕生』の方が見せ方として断然上手くて美しく気持ちよく、本当にお見事という感じ。出来だけでいうなら『誕生』の勝利だと思います。
でも、私はなぜか『消滅』の方が好き。出来事の面白さもありますが、言葉じゃ説明できない滲み出るパワーを感じます。
SiSの一夜限りのライブ終了後、見ていた人が「BiSの初期みたいで面白かったよ」と話す場面がありました。「昔のBiSはヒドかった。それで一喜一憂させるのがBiSのすごさだった」と。私は初期のBiSを知りませんが、この映画丸ごと、それに近いのかも。決してヒドい映画ではないけれど、SiSを含める負けチームの一員となり、勝ち組を負かしたい宮地監督の熱がそれを感じさせるのかな、と思います。

『SiS消滅』を私は劇場で2回見ました。たまたま近くにいた人に見覚えがあり「2回目ですか?」と上映後に話しかけたら「14回目です。毎日通ってます」といわれ、ビックリしました。
「二つの映画の動員競争で自分の推しメンを応援したい。最初はそれだけだったけど、だんだん『宮地推し』になってきちゃって…」と聞いて、またビックリ。映画を作った宮地監督をもっと理解したくなり、通っていると言うのです。

『SiS〜』の全編に溢れる「カンパニー松尾リスペクト感」。宮地監督は松尾さんが大好きなんだなあと思います。でも、私は溢れすぎてるその愛の形にちょっと疑問もありました。BiSに負けたくないSiSは、ライブでBiSの曲を歌って怒られてましたが、宮地監督も松尾監督の曲を歌っちゃうのかな、と思いました。だって戦争なんでしょ? 東京タワーを目指す必要、本当にあるのかな? と。
でも、14回目の彼に「宮地さんは憧れの松尾監督に勝ちたいけど、追い抜きたくはないのかも」と言われ、そんな発想はなかった私は、なるほどなあ…と思いました。
実際の宮地さんがどうなのかは全く知りません。でも、男の人ってそういうの、確かにありそうです。後輩は先輩を簡単に追い越してはいけない。息子は父を追い越さない。『北の国から』でいうところの「ゴローさんを投げ飛ばしちゃった純くん」です。そんな男同士ならではの暗黙の心得は、女性には一切ない。ニコニコしながらライバルを崖から蹴落とせるのが女です。そんな映画、見ましたよね。
そういえば芝公園の女子たちも言ってました。女の涙は演技です。自分にとって役に立つ、より強力な利益をもたらす者が現れれば、容赦なく乗り換える。未練も情けもなく瞬時にバイバイです。「清水さんを信じる道もあるでしょう!」という岩淵さんの叫びは、女たちの前では無力です。届かず消えていくのです。

なんかいろいろ腑に落ちました。そういえば私も女でした。怒ってる場合じゃなかった。
さっさと無益な場所から去っていく山下百恵は賢いし、それでいいのです。
アイドルとして輝こうとする女子は全員ズルいし、その軽さもタフさも魅力なんです。
ビジネス戦争おじさんたちの必死な姿も面白いです。
仕組みも仕掛けも分かっていながら彼女たちについていくアイドルオタクも愛しいし、羨ましいなと思います。
芸能界にはやっぱり興味ない。でも、頭おかしいのは芸能界に限った話じゃないと思う。たくさんモヤモヤさせられましたが、私はモヤモヤする映画が好き。この映画、好きですよ!
山口雅プロフィール

名古屋市在住、会社員。

世界の片隅でタウン誌や映画誌の編集をしています。

2014年6月「テレキャノ名古屋非公式BOOK」をきっかけに、『劇場版テレクラキャノンボール2013』Blue-ray特典ガイドブックを取材編集。
名古屋の自主上映主催は2014年12月「アラウンド・ザ・テレキャノ」「テレキャノ英語版」「バクシーシ山下の社会科見学」「劇場版 どついたるねんライブ」「カンパニー松尾の世界」など。
非公式BOOKも上映のたびに作り続けてます。

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