山口雅のやさしい味噌カツ vol.19
2017-01-05
コラムニスト:山口雅
ビーバップみのる監督の『巨根の覚醒』という新作が完成したらしいです。
昨年のお正月、劇場公開された『劇場版501』以来のドキュメントで、「巨根のAV男優」を自称する一般男性(通称「巨根さん」)を主人公に、半年以上かけて撮影した自主制作だとか。
で、それを一万円で販売する予定とのことです。

『501』完成前の頃と同様、昨秋あたりからメールやら何やらが、みのる監督から次々と来るようになりました。501の時にはいちいち困惑し途方に暮れていた私ですが、あれから一年。みのるさんの迷宮と、付き合い方も楽しみ方もだいぶ覚えました。
基本的には「知らんがな」でいたいと思います。でもその作品がとても楽しめたこと、それを一万円で売るという話も含め、みのるさんはやっぱり面白いなと思っています。

みのるさんが完成間近の『巨根の覚醒』を何人かに送ったところ「一万円もするものを、いいんですか!?」という反応の多さに、逆に驚いたそうです。「誰かに許可を得ての一万円じゃないんすよ。俺が勝手に一万円って言っただけなんすよ。それなのにみんなまず言うんすよ。価値って、何なんすかね?」と、みのるさんが言ってました。ホントにそうだなって思います。
内容がこの挑戦的な価格に見合うのかは分かりません。ただ、私はこれを面白いと思ったし、ぼったくりの類では全くないと思っているし、そこに意味も理由も見出しています。が、そこはそれぞれの価値基準ですので保証できることは特にないです。見ない人は2980円でも見ないでしょう。無責任な言い方ですが、それはそうです。

「SMAP×SMAPが、俺はすげー分かるっすよ。結局言いたいことが言えなくて、本質を言えなくて、核心をぼやかしたまま昔の振り返り映像を見せて、最後は何となくオンリーワンなイイ歌で。そうするしかなかったSMAPも、あれを編集した奴も俺は分かるっす。今はこれしかねーよなって。言えずにモヤモヤしたまま生きていくのも人生っす。俺は4対1になっちゃったキムタクに肩入れしちゃうなーって話っすよ」というみのるさんに、同意です。人生は腑に落ちないことばかり。そしてキムタクはいつだって正義なのです。

私は紙媒体業界の隅っこに生きている人間ですが、近年の折れ線グラフは下がりっぱなしです。予算もガシガシ削られていきます。働けど働けど、じっと手を見続ける日々です。自分の半径数メートルでしか物事が分からないけれど、まあどこもそんな感じですよね。AV業界もあんまり光に満ち溢れてる雰囲気ではなさそうです。「なんだかなあ〜」ということばかり目立ちます。

そんな中、どんな経路でどう出せるのかも見えないまま、とにかく撮りたいものを撮り、素っ頓狂で自由な価格をつけて世に出してみようというみのるさんは、面白いしカッコいいなあ、と思っています。一万円で一万本、目標額は10億円だそうです。
ガタガタ文句だけ一人前で大したものを見せてくれない人には、フーンとしか思いませんよね。それは多分ここで描かれる、飛びたいけどなかなか飛べない「巨根さん」です。そしてそれは私です。私も巨根さんなのです。「俺はふざけ続けたいんすよ。その方が楽しいじゃないですか」というみのるさん、カッコいいなと思います。そんなみのるさんの中にも巨根さんはやっぱり存在していて、そこらへんも含めて面白いなと思っています。

で、『巨根の覚醒』とはまったく関係ないのですが、みのるさんが最近読んで大好きになったという「資本論」のお話が面白かったので、ちょっとご紹介します。マンガで読んだ内容を解説していただきました。あくまでみのるさんの興味という独自フィルターを通過しているので、もろもろ本来と違う部分があってもご容赦くだされば幸いです。お時間あればお付き合いください。できれば脳内再生みのるボイスで。
2017年、明けました。今年もよろしくお願いいたします。

***

あるところにチーズを作ってる親子がいるんですよ。
お母さんはいない。お父さんと息子が山でチーズを作ってる。週に1回、町へ出て市場でチーズを売って、そのお金で材料を買って、またお父さんのとこへ戻る。という生活をずっとやってるんです。上がりも下がりもせず安定してるんです。

− 笠地蔵みたいですね。

そうそう。息子は18、19歳、多感です。町へ出ると「あ、可愛い女の子いっぱいいるな」「みんな、いい服着てんな。活気があるな。山と違うな」って。そのうち、ある女の子と出会っちゃうんですよ。いつもチーズを買いに来てくれる、気になる子。その子に会うのが楽しみで街へ行くようになってくるっす。でもシャイですから、なかなか声もかけられない。女の子が「いつも美味しいです」「あ、嬉しい」みたいなね。
で、いつものように町に行ったら、その子が自分と同じくらいの男と並んでたんです。そいつはスーツでパリッとしてる。自分は作業着。ショックを受けるわけです。
彼女が男にチーズを渡して言うわけ。「彼のチーズを食べてみて。すんごい美味しいから」。男は「これは美味い。君、町でチーズを作る気はないか?」「いや、僕はお父さんとチーズを作ってて、これ以上量産できないんです」「そうか。僕がお金を出すからお父さんに言ってみてくれないか? 君のチーズは美味しいから、もっと作ればもっと売れるよ」。
チーズも褒めてくれて、息子は嬉しかったんすよ。「お父さん、こんな話があるんだけど。町でチーズを作れっていうんだよね。もっと作ればもっと売れるって言ってるよ」。お父さんは言うわけです。
「興味ない」

−(笑)男らしいですね。

そう(笑)。息子は「なんでー! 町の方が楽しいじゃん!」。でもお父さんは「興味ない」。で、また町へ行ったら、男が息子をレストランに連れていくんですよ。

− ウキウキする楽しい場所へ。

そう、町のイイとこを見せちゃう。これまたイイ店に行くんすよ。メニュー見ても分かんない。でもとにかく美味しい。「お金ってスゴイなー」みたいな。自分の知らない世界を見せられちゃったんです。
「お父さんは、何て言ってた?」「ちょっとダメだって言うんです。でも俺、もっかい説得してみます!」「頑張れ。君のチーズはスゴイから」って。
息子は、お父さんに歯向かうんですね。「お父さん、なんで分かってくれないんだ! 僕たちのチーズを皆に食べさせたいんだ!」。お父さんは「ダメだ。今が一番いいんだ」って言うんです。
お父さんはいろいろ見てきた感じで言うんですよ。でも息子は、見てきてないから見たい。
ケンカしちゃうんです。「勝手にしろ…!」と。
「勝手にするよ!」と息子は出て行っちゃう。自分の荷物だけ持って町へ出て、男に会いに行くんです。
で、男は「まず、マンションの一室を借りろ。そこでチーズを作ろう」と。「借りるお金や機材は俺が用意してやる。借用書を書け。失敗しても金は返せ」「分かりました。やります」って始めるんです。マンションの一室でしこしこ作って、そこそこ売れるんですよ。
でも、一人で作って一人で売って、そのうち限界が来るんですよね。男が助言するんです。「お前、頑張ってるな。今よりもっと稼ぐには、一人従業員を雇え。そしたらもっと規模も大きくなる。そのお金は俺が出してやる。借用書を書け」「はい」。
もっと広い事務所を借りたんですよ。ハマジムの事務所くらいですね。5人くらい雇っちゃうんですよ。

− まだ意外に小さいですね(笑)。

そう(笑)。5人を見ながら作り方を教えて、町で「美味しい」という声を聞いたりして、牧歌的にやるんです。でも、これも行き詰まってくるんですね。この規模だと限界。
そしたらまた男が「もう工場を借りちゃおう」って。30人の規模になってくるんですね。工場を作っちゃって市場と行き来を始めるんです。でも、5人なら行き届いてたのに、30人だと。

− 自分では見られない。

そう。見れなくなって、工場の人間関係も出てきちゃった。待遇に不満を言う奴、働かない奴とか出てきちゃって。息子は美味しいチーズを作りたいだけだったのに、人間関係に疲れてきちゃうんですよ。でも若造だから。
そしたらまた男が来て「じゃ、一人立てろ。俺が紹介してやる」と、ガタイのいい副社長を置くんです。今まで従業員に改善しろとか休みをくれとか言われると「あー、そう? しょうがないな…」とやってたのを、副社長が「社長じゃなくて俺に言え」と。副社長は「働かないなら辞めろ」とズバズバ言ってくれる人。いったん組織が締まるんです。でも「なんか…みんな、つまんなそうな顔してる…」(笑)。
主人公は悩み始めちゃうんです。「でもこんなものかなー」と、そのまま進んでいく。たまには「もう少し優しく言ってあげて」と言うんだけど「甘いですよ!」とか言われて、何も言えなくなっちゃう。
で、彼は売春婦にハマっていくんですよ。

− はけ口を求めたんですかね…。

そう、愚痴を聞いてくれる人(笑)。はけ口を外に持って行くんだけど、そこで山にいた時の幼馴染の女の子にたまたま出会っちゃうんです。幼馴染が売春してた。その子はその子で、山に刺激がなくて都会へ出てきたけど、身体を売ってた。

− そんなサイドストーリーもあるんですね。

そんなのもあってね。「だってお金がないと、しょうがないじゃない!」とか言われて。そんなこともあり、また戻って、何とか続けました。
で、その規模での作業効率を突き詰めたけど、限界まで来たんすよ。男が言うんです。「どうする? もっとお金を稼ぐか? お前のチーズを世の中に広めたいか?」って。「やりたい…!」「よーし」みたいな。
で、一気に200人態勢になるんです。

− 大規模化したんですね。

もう圧倒的に作る量が増えちゃったんで、市場では売り切れない。いろんなお店に持ってって流通させることを考えていくんですね。それまでは社長が自分で売ってたんだけど、専門の営業マンを雇うんです。息子は作業着よりスーツを着る時間が長くなっちゃって、工場のことも見れなくなって、行くと知らない奴が働いてたりするんです。

− もう自分のものじゃなくなってきたんですね。

そう、分かんなくなっていくんです。労働組合が勝手にできちゃったりしてて(笑)。
工場の前でデモが始まっちゃったりしてる中、息子は頑張るんです。「不満があれば工場を変えましょう、作業がきついからベルトコンベアーの位置を逆にした方がいいね」とか、いっぱい考えて改善するんです。賃金を上げるともっと売ることにつながってしまうから、なるべく賃金を上げずに働きやすい環境を作ろうとするんです。でも副社長に「労働組合を作った首謀者を辞めさせないと」とか言われて、悩むんですね。
サイドストーリーとしては、組合に参加してた奴が二人で「まあ、でもしょうがないのかなあ。こういう時代かなぁ」とか喋ってる。多分、佐川急便のドライバーみたいな二人ですよね。「でもさ、あの条件はあんまりだよね」とか。二人はホームレスを見かけたりする。パッと顔見合わせて「…まあ、でも俺たち、仕事があるだけいいか!」

− 目に浮かびます(笑)。

組合の首謀者は勢いを増していって、工場の窓ガラスを割ったりする。副社長が「あいつはもうダメです」。息子も「分かりました」って、人を切る。そういうことを経ていくんです。
ある時、息子が市場を視察してて「このチーズ、マズい!」という声を聞いてしまうんですよ。よく見たら自分とこのチーズなんです。買って食べたらすんごくマズい。「えー!」って工場へ行ったら、自分の作り方とは明らかに違ってしまっていたんです。

− あー、機械化しちゃった大規模工場ですからね…。

「もうこの規模、直せんわ!」って(笑)
「どうすればいいの!」って、もう悩んじゃって、全財産を下ろして最初の借用書のお金を男に全部返して「辞めます」って。

− ええっ!

で、お父さんのところに行って「お父さん、もう一度ここで作らせて!」と言うんです。そしたらお父さんが「だから言ったろ。ここが一番いいって」。
そういう話です。それが、「資本論」。



告知
『巨根の覚醒』完成直前イベント 
1/7(土) 新宿ロフトプラスワン
OPEN 24:00 / START 24:30
前売¥2,000/当日¥2,500(要1オーダー¥500以上)
※前売券はe+にて12/20(火)10時〜発売!
詳細は http://www.loft-prj.co.jp/schedule/plusone/55452
山口雅プロフィール

名古屋市在住、会社員。

世界の片隅でタウン誌や映画誌の編集をしています。

2014年6月「テレキャノ名古屋非公式BOOK」をきっかけに、『劇場版テレクラキャノンボール2013』Blue-ray特典ガイドブックを取材編集。
名古屋の自主上映主催は2014年12月「アラウンド・ザ・テレキャノ」「テレキャノ英語版」「バクシーシ山下の社会科見学」「劇場版 どついたるねんライブ」「カンパニー松尾の世界」など。
非公式BOOKも上映のたびに作り続けてます。

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