山口雅のやさしい味噌カツ vol.18
2016-11-07
コラムニスト:山口雅
現在、インジャン古河監督が大ブームです。(私の中で)
まだ『ザーメン死亡遊戯』シリーズ4作を一気見したところなんですが、次に行くのがもったいない。この余韻を楽しみたい。別の作品も手元にスタンバイOKなので、観たらまた違う印象も受けることでしょう。現時点のテンションでお伝えする『ザーメン死亡遊戯』です。

インジャン古河監督は、カンパニー松尾さんやバクシーシ山下さんの後輩にあたるV&Rの監督です(当時)。元V&Rのスチャラカ宮下さんにこの作品を勧められました。お名前だけは以前から聞いていたものの手が出せずにいたのは、何か怖そうだったから。エゲツないのかな、イヤだな…と思ってました。
エゲツなくはなかった。でも、あざとかった。全体的に、勢いよりもコツコツした用意周到感あります。そしてポップで洒落てて面白くて、映像も編集もセンスばつぐん。エンタメ度も最高。これがデビュー作なんて素晴らしい!

『ザーメン死亡遊戯』、内容も知らず「あ、そーいうこと」と見ながら理解しました。第一の敵、第二の敵…、ブルース・リーの『死亡遊戯』、まさにタイトルまんまです。1999年の1作目から完結の4作目まで、基本パターンは同じ。女優さんが次から次へと現れる「敵」に浴びせられ続けるザーメンは決して拭いちゃダメ、洗っちゃダメ、落としちゃダメ。顔も髪もバリバリ状態のまま、街へ出たり電車に乗ったり、古河監督に休むヒマなく連れ回され続けます。あらゆる場所で敵が出てきて「えーっ!嘘でしょ!」とか叫びながら、アドベンチャーな時間が終わりません。大変です。体や顔についたザーメンを何日も放置したこと、ありますか? 私はないです。精子って長時間放置するとあんな感じになるんですね。初めて知った。

街角で、ホテルで、店で、突如目の前に現れて襲い掛かる男たちに対峙する女の子は笑ってたり、怒り出したり、「もーやだ!」と泣き出したり。化粧は落ち、髪は乱れ、見た目も心境もどんどん変化していきます。しかし古河監督は終始テンション変わらず。その場をクリアするたびに言うセリフも、ずーっと同じ。「やったね、倒したね!」「早く行かないと次の敵が来ちゃうよ!」。ほぼコレばっかり。
でも、この言葉こそがマジックです。疲労困憊した女の子が容赦なくザーメンを浴びせられる姿は観ていてゲンナリしてくるんですが「やったね、倒したね!」と言われると、ウン、良かったね! 勝ったね! とつい思っちゃう。「かけられた」という受動行為じゃなく、こっちが「かけさせた」という能動的行為の感覚になるんです。無邪気な古河監督の口調にも完全に乗せられる。怖い。私は「男の人に出してもらえるのって、本当に光栄でありがたいことだな…」と感謝の気持ちでいっぱいになりました。

最終的にすべての敵を倒し、解放された女の子たちのはじける笑顔は最高です。太陽よりもまぶしく、青空よりも突き抜けてる。もうとにかく嬉しそうで、こっちもつられて満面の笑顔になる。ここまで耐えてきた努力がパーッと一気に報われる様子に思わず涙しましたが、よく考えたらまったく無駄な感動です。この感動、最初から必要ない。でもラストをこんな明るい気分で終わらせてくれて、エンドロールに流れるメイキング的映像も本当に素敵。「いいもの観たな!」って思っちゃうんですよ。いっさい無駄だけど。

でも古河監督って怖い…と、ホントに思ったのは、3作目。
タイトルに女優名が入っていない3作目だけは、死亡遊戯にチャレンジする主演女優が古河監督の彼女なのです。出演OKの理由は「普段あんまり会えないから、この撮影なら何日も一緒にいられると思った」。いろんな男に襲い掛かられ、ザーメンまみれになる我が身に「私のことが好きじゃないんだ。嫌いな相手にやることをされている」と感じた彼女は、どんどんおかしくなっていく。
1作目、2作目の女優さんたちは泣いたり怒ったりしながらも基本的に明るくて、与えられた役割を理解していました。その上で奮闘する姿は安心して観てられました。それに比べて、彼女は最初から不安や不信、怒りや悲しみのマイナスの感情を抱いているので、すべてが真逆なのです。
彼女が「もう一生、誰も好きになれないかも」と、スタッフに深刻な顔で相談している後ろの席で、パフェとかコーヒーゼリーをぱくぱく食べている古河監督自身のカット。うわあ、なんでそんな絵、撮ってんの! なんでそれ泣いてる彼女の絵と交互に見せるの!
毎度おなじみ、古河監督の「やったね!倒したね」というセリフにも、彼女は悲しみのどん底みたいな表情を見せる。もう寒々です。私への響き方も今までと180度、ガラリと変わってしまった。知らない女性が相手なら何とも思わないことが、立場が変わると見え方が全く変わるというのは私にとってもチクチクしました。
いつも最高に幸せで解放感200%なはずのラストシーンも、これまたゾッとする感じ。最終的にはハッピーエンドな状況になるのですが、また別の意味で恐ろしいのです。シリーズ通してやってることはずーーっと同じなのに、全てのことがガシャンと音を立てて反転し、引っくり返る気がしました。すごい!!

このシリーズ、設定はほぼ同じなので女優さんのキャラの違いによるところも大きい。1作目、2作目と進むにつれて手法は洗練され見やすくなりますが、私は1作目が一番好きです。主演の深田愛ちゃんが健康的で可愛いし、作りが少々試行錯誤なのも含め、一番面白かった。プラダのバッグにかけられるのはインパクトありますよね。顔より全然ショックです。いきなり最初の敵が古河監督で、ずっと声だけ聞こえていたご本人がフレームに入った時の驚きも大きかった。このマイブームはやはりインジャン古河さんが超絶イケメンという要素も外せません。今までも出演作は見たことがあり「インジャン古河の歌」というモテ男への嫉妬を歌ったデモ田中さんの弾き語りとかも聴いたのに、この方の印象は薄かった。いやー、カッコイイです。3作目の彼女への対応も女性目線では鬼畜以外の何物でもないのですが、それも含めて悪い男への憧憬が止まりません、止めたい!
でも一箇所だけ、その極私的盛り上がりテンションに水を差したシーンがありました。4作目で古河監督自身がバンド演奏するライブシーンがあるのですが、弾いてるギターがフライングVでした。「あ、そっちね…!」と、なんかいろいろ合点がいきました。偏見。

あ、あと次々襲い掛かる男優陣も見どころです。男優の森林原人さんのデビュー作でもあり、大変可愛らしい姿で登場されます。他にもいろんな人が盛り上げに一役も二役も買っていて、個性的な男性陣を観ているだけでも面白い。ちなみに「おはよう隊」が、私は大嫌いです。ああいうの無理…。

ということで『ザーメン死亡遊戯』はすんごく面白かったです。さて、次を見ようかな?

*今回、レビューしたインジャン古河監督作『ザーメン死亡遊戯』4部作はV& Rプランニングから1本にまとまってDVD化されています!
*V&R公式購入サイトはコチラ
http://shop.vandr.co.jp/products/detail.php?product_id=1191


山口雅プロフィール

名古屋市在住、会社員。

世界の片隅でタウン誌や映画誌の編集をしています。

2014年6月「テレキャノ名古屋非公式BOOK」をきっかけに、『劇場版テレクラキャノンボール2013』Blue-ray特典ガイドブックを取材編集。
名古屋の自主上映主催は2014年12月「アラウンド・ザ・テレキャノ」「テレキャノ英語版」「バクシーシ山下の社会科見学」「劇場版 どついたるねんライブ」「カンパニー松尾の世界」など。
非公式BOOKも上映のたびに作り続けてます。

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