山口雅のやさしい味噌カツ vol.16
2016-09-20
コラムニスト:山口雅
タートル今田さん退職記念(?)インタビューその2です。
前回のコラムで、タートル今田さんのインタビューを掲載させてもらいました。その最後に「ご本人から使ってくれと言われた話もあったけど、切った」と書いてしまったんですよね。自分でバラしといて何ですが少々気になり、せっかくの良いお話なのでそれを続きとして公開します。インタビューは8月半ば、すっかり秋めいてきた今日この頃は、ハマジムさんにもすでに以前ほどの悲壮感は漂ってないらしいです。前回よりはゆるいトーン、のんびり今田作品を見ながらお読みください。

***

こないだ松尾さんに、確定申告のやり方とか教わったのね。社会保険とか経費計上の方法とかさ。「あー! 超めんどくさい!」と思って。

− 現実問題ですね(笑)。

これは超めんどくさいなと。でも覚えることが増えて、それはそれで楽しいなと思った。

− 本当に? 確定申告が?(笑)

うん。(真顔)やったことないからね。生きるための術を学んでいくんだから、前向きですよね。正直全然やりたくないけど、習得していくことに前向きです(真顔)。

− 偉いですね…。

勉強になるし、当然やってる人たちもいるじゃないですか(真顔)。作品も表現に深みが出るかなと思うんです。基本、俺は前向きな人間だから。人のせいにしてても前に進まないし、そこで止まったら仕方ないからね。

− 確かに、前向きに考えたら本当にいろいろあると思う。今回、私も最初は衝撃だったけど「自分に何ができるかな、あれはどうか、これはどうか」とか考えたら、わりと楽しくなって。

そうなんだよね。もともと俺は自分に映像の才能なんて欠片も無いと思ってる人間で「映像を続けていけるのかな、フリーになるなんて無理だな」と思った。でも、続けたいという気持ちが重要で、映像をやりたいと思えたらいろいろクリアになった。

− 今田さんのその前向きさや社交性が失われるのはハマジムにとって損失ですよ(笑)。

(笑)何か失ったら方向転換して生きていこうとするじゃん。必要なら変わらないといけないし、確定申告と同じですよ。術は身に付けていかないと。
俺も、そういう中で自然と身についた術だよね。この世界では人の気持ちをつかんで仲良くならなきゃならない。2日間でそれを迫られるAVドキュメントで一生懸命身に付けたものだから。俺は本当に人見知りだったから、女優と2人きりになるのも超怖かったの。

− えっ、それは意外!

だって年齢も環境も違うAV女優と2人きりで、俺とセックスしなきゃいけなくて「なんでこの人、AVやってるんだろう」とか、すごく緊張したね。俺らはそういう撮影スタイルで、逆にいうとそれしか教えてもらえないから。

− でも、今田さんの作品を見て「人と距離を縮めるのが上手い人」という印象を持ってる人は多いと思う。

それはここで身に付けたものだよ。基本、俺は面倒くさがりで、触れ合おうとしてこなかったからね。ドキュメントはそうせざるを得ないし、そうしないと自分が好きなものが撮れないから身に付けた術。昔の友達は俺の社会不適合性を知ってるから「今田はハマジムに入ってなかったらヤバイ人だね」と(笑)。協調性もないし、皆ができることができない人だった。10年でその術を得ましたね。人に手助けしてもらえる自分になった。

− 距離の話でいうと、今田さんのAVは昔に比べて最近の作品では距離感が変化した気がしてて。以前は寄り添う姿勢だったのが、最近の作品は少し引いて観察してる視点が入ってる気がする。それを勝手に今回のことと重ねて見てしまう部分もあったんだけど。

AVがしんどくなってきたのは、年齢もあるんだよね。男としての力、セックス力じゃなくてさ。惚れたハレタの世界でやってきたけど、年齢差が広がるにつれてそういうのなくなってくるじゃん。

− 女優さんとの年齢差?

そう。アプローチも変わってくる。最近、女に対する執着が自分で薄いなと思ってるの。女の子は恋してる時が一番綺麗でエロいって最初に教えられるし、それを最大限に考えて撮ってる。惚れさせるためには惚れるしかなかったのね。松尾さんとかはまた違うアプローチがあったと思うけど、俺はそう考えてた。俺はAVを始めた頃は太ってて服も買わないし髪もボサボサ、気を遣わない感じだったの。

− 女の子にとって魅力的な風貌ではなかった。

そう。でも、そんな状態でも俺は映画をやってた時はモテてた。中身で勝負だと思ってたけど、人から見た目も重要だと言われて。

− AVの撮影は一緒にいるのも短時間だしね。

そうそう。大学までは異性を意識してチャラチャラしてたけど、映画を始めて「あ、そうじゃないんだな、内面が重要なんだ、外見にかまけちゃダメだ」と、あえて外見は何もしないでいた。そのままハマジムに来て「ダメだ」と言われ、意識的に服も髪も変えたら、やっぱ変わるんすよ。

− 女子の対応が(笑)。

信じられないくらい変わった。俺はトライアンドエラーをしながら成長してる人間なの。
最近はその転換期だったんだよね。身綺麗にして「君が好きだ」と言ってるだけじゃ、もう作品は撮れない。今もその方法で通用しなくはないけど、若い頃は魔法をかけるようにそれができてたんだよね。なのに最近「あれ、魔法の効きが悪いな」(笑)。どうしようかなという転換期ではありましたね。さっき観察してると言ったけど、ここ2.3年はパチンとやるだけじゃ魔法がかからなくなったから、この子にはどうアプローチするのがいいかと基本的なことを考え始めてた。みのるも男として見てもらえない恐怖については語ってたけど。

− みのるさんも「見た目が子犬じゃなくなってきた」って言ってた(笑)。

そう。女と対峙してると、ひしひしと伝わってきちゃうんです。作風も変わります(笑)。

− シビアですね。でも変化していくのが自然なことだから。

うん、それが面白いと思うんだよなあ。撮ってる人も年老いて、考えも表現方法も変わる。その変化が見えないと、逆に変だよね。

− 『さすらいのAV監督 嶋章平のありふれた日常』、あれは退職が決まって自省的なテロップを入れたんですか?

そう思ってる人がいるかもね。実は編集はかなり前に上がってたんだよ。「AVがしんどくなってる」ってテロップを入れたのは辞めるのが決まる前。でも、しんどさを伝えたかったんじゃなく「だけど前向きになってきたから安心してね」って言いたかったの。「キツかったけど、撮っていくことで俺は見つけてきたよ」って前向きなテロップだったんです(笑)。嶋さんはAVにも女にも貪欲で、俺みたいにめんどくさいことを考えてないように見える人だから、俺は逆に前向きになった部分もある。嶋さんに「AVって飽きないですか?」と聞いたら「全然飽きないよ!」。この人は何も考えずに撮ってんだ、バカなのかな?(笑)って。その真っ直ぐさと単純さが大好きで、失礼かもしれないけど、明快な生き方は強い。あれは俺の心が変わっていく話なんだよね。

− 更新の間が空いて、このタイミングに更新開始したのも何かあるのかなって。

いや、単に俺が編集できなくなっちゃったの。「全然面白くねー、こんな駄作を発表したくない」と自己嫌悪になり、本当にできなくなっちゃって。でも編集してる段階で好きになっていった。こういうので俺は救われてるんだなと思えて編集できた。自分の中でターニングポイントな作品になったと思う。さっき言った女性へのアプローチの変化や、ハマジムへのイラ立ち、そういうの全部含めて、迷ってた時に見えた光だったの。嶋章平は(笑)。

− すごく重要な作品なんですね!(笑)

(笑)みんな、ただのユルいAVと思ってるかもしれないけど、本当に俺にはそういう作品なんですよ。
AVってさ、「こう思って撮ってるのかな、こういう意味かな」とか、対話できるジャンルとして俺の中で存在したのね。そうであってほしいと今も思ってる。俺もよく松尾さんや山下さん、平野さんに「全然そんな意味じゃないよ」とか言われたし。

− 自分の中での対話。

そうそう。だから今言ったのは、謎解きの俺の解答。いろいろ考えてみると、面白いのではないかと!(笑)

− はい。そうします。今田さん、ありがとうございました!(笑)

山口雅プロフィール

名古屋市在住、会社員。

世界の片隅でタウン誌や映画誌の編集をしています。

2014年6月「テレキャノ名古屋非公式BOOK」をきっかけに、『劇場版テレクラキャノンボール2013』Blue-ray特典ガイドブックを取材編集。
名古屋の自主上映主催は2014年12月「アラウンド・ザ・テレキャノ」「テレキャノ英語版」「バクシーシ山下の社会科見学」「劇場版 どついたるねんライブ」「カンパニー松尾の世界」など。
非公式BOOKも上映のたびに作り続けてます。

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